モニターヘッドホンTAGO STUDIO T3-01をレコーディングエンジニアの太田タカシさんがレビューします。多くのエンジニアやミュージシャンがリファレンスとして愛用しているT3-01、その理由とは?発売から6年経った今、改めて紐解きます。
目次
はじめに
TAGO STUDIO とは
T3-01 の特徴
T3-01 の装着感レビュー
T3-01 の音質レビュー
多くの人に選ばれる理由
製品仕様
まとめ
突然ですが、群馬県にどんなイメージをお持ちでしょうか?草津温泉?富岡製糸場?妙義山?人によって色々あると思いますが、ミュージシャンや我々レコーディングエンジニアにとっては高崎市にあるTAGO STUDIOなのではないでしょうか?
TAGO STUDIOは、群馬県高崎市にあるプロ用のレコーディングスタジオです。高崎市と作曲家であり音楽プロデューサーである多胡邦夫氏によって2014年に作られた、レコーディングスタジオとしては珍しいスタンスのスタジオです。
都心から程よい距離の立地と「吸音材を使わず、響きを引き立たせて音を殺さずいきいきと鳴らす」ことを目指したという設計、そして往年のメイスタジオがクローズした際に譲り受けたというビンテージ機材など、設備を含めて大変人気のあるレコーディングスタジオです。
そんなTAGO STUDIOから2017年に飛び出してきたのが、今回レビューするヘッドホン「T3-01」です。
作曲家からプロデューサー、ミュージシャン、そして楽器の専門家に至るまで幅広い"音のプロ"の人たちが所有しており、プロが仕事の道具として愛用している印象があります。また、ヘッドフォン祭にお邪魔した際に、ヘッドホンアンプの試聴用のヘッドホンとして多くのメーカー、代理店がT3-01を常設していたのもの印象的でした。
それでは、T3-01の特徴から紹介していきましょう。
ヘッドホン本体は、デザイン性に富んでいながらもシンプルなので飽きがこない印象です。
特にハウジングが特徴的で、無垢の楓の切り出しが使用されています。
個体によって木目が違うというところも楽器のようで好印象です。ギターやベースでもナチュラルやサンバーストなど木目が見える塗装が好きなので個人的にもグッとくるデザインです。
ヘッドバンドのクッションは柔らかく、内側はメッシュになっています。金属部分に「TAKASAKI」と刻印が入ってるところもかっこいいですし、細部に渡る仕事を感じ取れます。
また、このヘッドクッションは簡単に交換ができるので経年劣化でボロボロになっても交換ができる点もプロの道具としてありがたいですね。
イヤーパッドはクッションが効いていて、やや余裕があるので長時間の装着も快適なのではないでしょうか。また、ファブリック素材なので加水分解の心配もなさそうです。
コネクタはΦ3.5 mm 金メッキステレオミニプラグです。
ケーブル1.8mでハイグレードのOFC線材を使用。制作段階ではは銀コーティングも試していたようですが、ドライバーとの相性を突き詰めていく段階でOFCの方がバランスを取れるということで採用されました。
ドライバーユニットはΦ40 mmで振動板にはシルクプロテインコーティングという技術を採用しています。この技術は群馬県産のシルクを高い技術力で精錬、溶液化して振動板をコーティングする技術で自然で綺麗な伸びのある音質を実現しています。
※製品の特徴については、インタビューで詳しくお話していただいてます。ぜひこちらもご覧ください。
【特別企画】”DEEP INSIDE Vol.2″我々はまだ本当の群馬を知らない(Part1) TAGO STUDIO T3-01秘話。
» こちらの記事を見る
では、実際に試聴していきましょう。
まずは、装着感ですが非常に軽いです。装着してることを感じさせない軽さなので演奏中もミックス作業中も重さが気にならないのではないでしょうか。
試聴環境は、Apple Mac Mini、インターフェイスにApogee Synphony MK2 でApple Musicのロスレス音源とProToolsでミックス途中の音源を聴いてみます。
音質の傾向としては、一聴して定位感の良さを感じます。低音域のベースやバスドラムは散ることがなくセンターにしっかり定位しつつ、高音域は綺麗に自然に広がっています。密閉型のヘッドホンにありがちな中低音域が窮屈な感じがない点も特徴なのではないでしょうか。
もしかしたら人によっては少し軽い音に感じるかもしれませんが、モニターヘッドホンとして重要な細部に注意が届きやすい音だと思います。
味付けのないナチュラルな音、そして派手さがない柔らかな音で、落ち着いた印象のいわゆるモニターライクなサウンドだと思います。ナチュラルな見た目とイメージが一致している印象を受けました。
さまざまなメーカーからモニターヘッドホンが発売されていますが、自分の周りのエンジニア、ミュージシャンを見てもT3-01を選ぶ人が多いです。いったい何故なのでしょうか。
個人的な見解となってしまいますが、まずひとつは、演奏しやすいという点にあるのではないでしょうか。いわゆるモニターヘッドホンの鋭いレスポンスといういうイメージではなく、少しスピーカーに近いレスポンス感があります。そのため、演奏に適度に集中できる感覚があります。逆にレスポンスが良すぎると演奏の細部が気になりすぎて、ナーバスになってしまうこともありますのでその点が調度良い。
もうひとつは、圧倒的にクセがない!という点です。モニターヘッドホンは、どのメーカーでもちょっとクセがあります。例えば、細部が見通せるように少し硬めの音色だったりします。そのため「このヘッドホンはこういう特性なので逆算して実際に録れてる音はこんな感じ」というように、考えながら演奏したりミックス作業をしたりするところがありますが、T3-01はその必要性をあまり感じません。
最後にもうひとつ、流行り廃りを感じない普遍的な音質を感じる点です。繰り返しとなりますが、派手さはなく落ち着いた音色と音の立ち上がりがありながら、「いいものは良く鳴らす、良くないものは良くなく鳴らす」というモニターヘッドホンの大事な部分を常に気にしてつくられている感じがします。
番外編ですが、価格がちょうどいいのも見逃せないところです。スタジオで普段使う定番よりも、どうせ自分で買うなら少しランクを上げたいけど10万超えると厳しいというミュージシャンやクリエイター、エンジニアは多いと思うんですよね。この価格でこのクオリティは申し分ないですし、モニターヘッドホンを探しているという方にもおすすめしやすいと思います。
形式 | 密閉ダイナミック | ドライバーユニット | Φ40 mm |
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出力音圧レベル | 100 dB SPL/mW | 周波数特性 | 5Hz - 40kHz |
最大入力 | 1000 mW | インピーダンス | 70Ω |
【商品情報】TAGO STUDIO T3-01
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今まで何度かT3-01を聴かせていただく機会があったのですが、改めてじっくりと聴いてみると多くの人がリファレンスとして使ってるいるのも納得のクオリティを感じます。
また、音質だけではなく、イヤーパッドやヘッドバンドなど、消耗品の交換が簡単な点、そしてエンジニアやミュージシャンには嬉しいキャリーケースが付いている点もポイントが高いですね。末長く付き合いたいヘッドホンです。
モニターヘッドホンを探している方も、これからリスニングヘッドホンを探そうと思っている方も基準として1台持っていて間違いないヘッドホンですので、一度試聴してほしいと思います。その時はぜひパッと聴きではなく時間をかけて色んな曲を聴いてみてください。きっとこのヘッドホンの本当の力に気付けると思います。