プロのレコーディング・ミックスマスタリングエンジニア太田タカシさんによるfinal D8000 DC Pro Edition と D8000 Proの比較レビューです。一新されたドライバーによりどのような変化があったのか、音質を含めて詳しく紹介します。
目次
final D8000 DC Pro Edition の特徴
final D8000 DC Pro Edition の装着感レビュー
final D8000 DC Pro Edition の音質レビュー
まとめ
個人的にも憧れのヘッドホン「final D8000 Pro」に後継機の「final D8000 DC Pro Edition」が発売されました。
以前執筆したfinal D8000 Pro Limited EditionとD8000のレビューの際にも触れていますが、D8000 Pro は、音の立ち上がり、広さ、どれをとっても十分最高峰のヘッドホンでした。「DC」となり、どのように進化を遂げたのか詳しくみていきましょう。
final D8000 Pro Limited EditionとD8000を比較レビュー × 太田タカシ|プロのエンジニアによるヘッドホンレビュー
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「D8000」に「DC」というネーミングが加わりました。この「DC」は、音楽の楽譜において曲の冒頭へ戻ることを指示する演奏記号の「Da Capo(ダ・カーポ)」から名付けられたんだそうです。「D8000」からのマイナーアップデートではなく、最初から開発しなおしているということからも、finalの意気込みを感じますね。
ヘッドホンにおいて音の軸となる搭載ドライバーが一新されています。
素材自体はD8000と同じものですが、プレスの方法や冷却までの温度変化も見直し、結晶構造や物性は別ものと言える素材になっているそうです。
さらに、コルゲーションのパターンも数百の試作を繰り返して最適なパターンに変更。空気バネを応用したAFDSも振動板に合わせて新規開発されました。これにより、フロントのマグネットを排してなめらかなサウンドを実現しているんだそうです。
突き詰めれるところまでとことん突き詰める。メーカーの信念を感じます。
ハウジングも一新されています。
前面・背面共に解放率が上がっています。わかりやすい違いだとパンチングメタルからドット目のように変わっています。
イヤーパッドは、D8000 Pro Limited Editonでも採用されていた和紙を使用した特殊生地で作られています。和紙の効果なのか、適度な硬さでドライな感じがする装着感と長時間装着していても蒸れにくい印象で好きな肌触りです。
厚みは約1.5倍にサイズアップしています。これは音質調整のためにパッド内の容積の確保をかねているそうです。
コネクタはD8000 DC Pro EditionもD8000と同じくロック機構付きの3.5mmの2極となっています。
付属のケーブルは、
・4.4mmの5極のバランスケーブル(1.5m)
・XLRのバランスケーブル(3m)
2種類です。どちらも潤工社との共同開発のシルバーコートケーブルです。
それでは実際に装着してみましょう。
側圧は強くないのですが、しっかりとした安定感を感じます。和紙を使った特殊繊維のイヤーパットはドライで爽やかな感触です。
ヘッドバンドにも同様の素材が使われていているのですが、和紙からイメージされるゴワゴワした感じは全くありません。非常に優しい装着感です。ヘッドパッドの厚みが増した分、耳たぶまですっぽりと覆ってくれます。
D8000 Proと装着感を比較すると大きな違いは重さです。D8000 DC Pro Editionの方が約100グラム軽いそうなのですが、装着感としてはもっと軽くなったように感じます。
PC:Mac Mini 2018
ソフト:Apple Nusicでロスレス再生
DAC:RME ADI-2/4 PRO SE、4.4mmのバランスアウト
まず最初に中域の再生のクリアさが耳に入ります。分離感、トランジェントの再現性が素晴らしいです。
音の距離感も適度で没入感をしっかり感じれる音場です。無理に広がっていくのではなく、眼下で気持ちよく音が鳴ってる感覚に浸れます。
大編成のオーケストラでは、弱音のパーカッションのアタックもしっかり感じることができます。ボーカルものに関しては、声が嫌味なくひとつ前に出てくるような印象です。
低域に関しては、強く主張せずにあくまで自然に鳴っている感覚です。実際の音源の低音に対して余裕を持って鳴らしている印象なので、編集点が見えやすく、エンジニアにとってすごく好印象です。
高域に関しても自然に伸びている感じです。こちらも低域の印象と同じで、あくまでも音源に対して味付けなく鳴っているという印象です。
中高域に関しては若干強めかな?と感じました。音源によっては歯擦音や笛の音が少し飛び出てくる時がありますが、これはヘッドホンの性能の良さから「見えすぎてしまう」ともいえる部分でしょう。
記事を書きながらずっと試聴しているのですが、没入感が本当に素晴らしく、音量をそこまで出さなくても心地よく聴き続けられます。
音の距離感が近いのにうるさくないので、本当にリアリティを感じます。
「なにこれ?本当にヘッドホン?でも、スピーカーとも感覚が違うし、この感覚は何だろう...」
と、聴き込んでしまいます。とにかくずっと聴いていたくなる音ですね。
D8000 Proと比較してみると、中高域の特徴は共通点を感じることができます。音量はD8000 Proの方がやや出る印象です。
中高域はD8000 DC Proよりも若干アタックが速くて強い印象なので、D8000 DC Proと比べると少しキツく感じるかもしれません。自然な鳴りと上下の広がりのシームレスな感じは、どうしてもD8000 DC Proに軍配が上がるのではないでしょうか。
【商品情報】final D8000 DC Pro Edition
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【商品情報】final D8000 Pro Edition
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今回は、2024年末にリリースされた「final D8000 DC Pro」と2017年にリリースされた「D8000 Pro」の比較試聴でした。
試聴する前は、D8000 Proの時点で「The FLAGSHIP」という印象だったのでDCになったところでそんなに違うのかな?すごくいいヘッドホンなのにブラッシュアップではなく最初から構築しちゃうの?と思っていたのですが、百聞は一聴にしかずと言いますか(これを言うとレビューの意味...となってしまいますか?)優に超えたヘッドホンだと思います。
特に、低域の自然な鳴り、伸びの良さはかなりのクオリティなので、店頭で視聴してみてほしいです。開放型で遮音性能はほとんどないので、静かなところで聴くとより実力を見定められると思います。