レコーディングエンジニアの太田タカシさんが真空管アンプCayin MT-35MK2 PLUS BTとTriode Luminous84をヘッドホンで試聴・レビューします。対照的な特徴を持つ真空管アンプを3種類のヘッドホンで聴き比べしながら紹介します。
目次
はじめに
真空管アンプに対する印象
フジヤエービック店舗で試聴
真空管アンプの音をヘッドホンで聴く
試聴で使うヘッドホンと特徴
Cayin MT-35MK2 PLUS BTレビュー
Triode Luminous84のレビュー
最後に
みなさんこんにちは。レコーディングエンジニアの太田です。今回は真空管アンプCayin MT-35MK2 PLUS BTとTriode Luminous84をヘッドホンで試聴・レビューします。
真空管は、テクノロジーとしてはだいぶ古く、一般的な機械ではほとんど使われることはなくなってきましたが、音楽を生業としている身としては、真空管は切っても切れないマテリアルのひとつです。
レコーディングでは一部のマイクロフォン、マイクプリアンプ、コンプレッサーやイコライザーに至るまでさまざまな機材で今でも真空管が使用されています。
私もレコーディングでボーカルを録るときはファーストチョイスに真空管のマイクを使っているし、スタジオにあれば真空管のコンプレッサーを使います。どちらもスムースなサウンド感と自然なのに豊かな倍音が好みです。
楽器でいえばエレキギターにも真空管アンプが大部分のシェアを占めていますし、足元のエフェクターに採用されているケースもあります。
そんな音楽とは切っても切れない真空管ですが、当然リスニング用の真空管アンプの音も気になるところです。
みなさんは真空管アンプに対してどんな印象がありますか?まろやか?暖かい?人によって様々な印象があると思います。個人的には、ピーキーなトランジェントは抑えつつ、ナローだけどクールなサウンドで、出てくる音は甘美で非常に音楽的という印象があります。
レコーディングの現場ではアクティブスピーカーが主流になりつつあるし、真空管アンプは音質変化が大きいため、仕事でモニタースピーカーに接続して使うというイメージはできないですが、真空管アンプを用いてレコードを大音量でかけるという過ごし方には憧れがあります。家にオーディオルームがあるならば、やはり真空管アンプを置きたいです。
今回の試聴は送ってもらってセッティングするのも、送り返すのも少し大仕事になってしまうので、いつもの作業部屋ではなく東京中野にあるフジヤエービック店舗にお邪魔させていただきました。
店舗では色々と試聴もできるので今回の真空管アンプだけではなく、ヘッドホンやイヤホン、DACなども試聴してみると楽しい悩みが増えるかもしれません。私も真空管アンプの試聴の後、気になるヘッドホンを試聴させていただきました。
少し調べていただければお分かりいただけると思いますが、真空管アンプは値段が超ピンキリです。
ということで、今回は比較的手を出しやすい10万円台の2機種Cayin MT-35MK2 PLUS BTとTriode Luminous84をヘッドホンで試聴していきます。
Luminous 84はプリメインアンプがメインの機種ということですが、今回はあえてヘッドホンで試聴させていただきました!
まずはヘッドホンの特徴を簡単に説明します。
SONY MDR-CD900STはレコーディングスタジオ定番のヘッドホンです。低音は豊富とはいえませんが、中高域の明瞭度はまさにモニターという感じのヘッドホンです。普段から使用している一番馴染みのあるヘッドホンということで選択しました。
【商品情報】SONY MDR-CD900ST
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次にSENNHEISER HD650です。こちらは開放型ということで選びました。個人的に所有はしてませんがレコーディングエンジニアのミックスチェックにおいて定番のヘッドホンで、アンプのパワーが少し必要ですがバランスの良さと開放型ならではのスピーカーで聴いている感覚に近いことが特徴です。
【商品情報】SENNHEISER HD650
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3つ目はMeze Audio 109 Proです。上記2つはモニターヘッドホンですので、リスニング向きのものでも聴いてみようということで選びました。109 Proは中低域がふくよかな印象で、聴いていて楽しい肯定感のあるサウンドが特徴です。
【商品情報】Meze Audio 109 Pro
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まずはCayin MT-35MK2 PLUS BTです。ブランド独自設計による電源、出力トランスを搭載し安定した電源を供給し、全帯域において高い忠実度とバランスを実現しています。真空管はNOSのGE製の5BK7Aを3本、Electro-Harmonix製EL34を4本使用しています。
まず最初に感じたのは中低域の厚みが増した印象でした。そこから上の帯域にかけて厚みがぐっと伸びて高域で綺麗に収束していき、ヘッドホンのランクが上がったような印象でした。3つのヘッドホンの中では一番変化を感じることができました。
次に開放型のHD650です。こちらも中低域から中域にかけて厚みが増すのは900STと変わらない印象です。倍音が増えている影響なのか高域のぎらつきが緩和されてるところも感じます。ただ単に高域が減ったというよりも、ならされてスムーズになった印象です。
最後に190 Proです。こちらは先の2つのヘッドホンと比較して元々中低域が豊富なので中低域が過度になるのかな?と予測してしたのですが、実際に聴いてみるとそんなことはなく、中低域のバランス感はそのままに音に包み込まれる感じが増して心地いい音場感になりました。
音の傾向としては、真空管アンプに対して抱いている印象通りのサウンドで、中域がふくよかでよく伸びる倍音を得られるアンプです。
今回は試しませんでしたが、Bluetooth接続も今の仕様に合ったユニークさを感じました。真空管の灯りを感じながらケーブルから解放されてワイヤレスで楽しむというのもなかなか乙な時間の過ごし方ですね。
【商品情報】Cayin MT-35MK2 PLUS BT
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次に試聴したのはTriode Luminous84です。真空管の構成はMT-35MK2と同じくEL84管2本12AU7管3本の構成です。AB級プッシュプル回路構成により11W+11Wの出力を確保しています。シンプルな構成で扱いやすく、フォノイコーライザー(MM型のみ)も搭載しているのでレコードプレイヤーも直接接続することができます。
一聴してソリッドなサウンドという印象を持ちました。真空管は一般的に柔らかいサウンドというイメージがあると思いますが、「そうそうソリッドでパキッとしてるんだよ」と、納得感のあるサウンドです。単純に音が硬いという印象ではなくSONY MDR-CD900ST特有のピーキーする感じは抑えられて聴きやすい印象になりました。
こちらもソリッドな印象に変化はありません。音場は少し狭く感じますが、空気感が増してボーカルの吐息成分を心地よく感じることができます。
109 Proが一番傾向が掴みやすかった印象です。中高域の伸びが増してバランスよく全帯域に渡ってスムーズに流れるような音を楽しむことができます。
音の傾向は全体的にソリッドな印象です。日本のメーカーのサウンドイメージに違わず、音声信号を極力変化させずに真空管サウンドを味付けするという印象です。
ヘッドホンで聴いた印象ではありますが、ソリッドで素直なサウンド傾向なのでスピーカーを選ばないのではないかと思います。スピーカーはあるけどアンプのグレードを少し上げたい、真空管のアンプを持っておきたい、という方の最初の一台に良いのではないでしょうか。
私も家のリビングに置いてあるスピーカーにサウンドがフィットしそうなので、繋いでその音を体感してみたいと思いました。スピーカーでのレビューはまたいずれできると嬉しいですね。
【商品情報】Triode Luminous84
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