フジヤエービック

 

分類

分類

  •   
2022.05.06
メーカー・プロインタビュー,

【メーカーインタビュー】FitEar Silverは搭載ドライバーも開発者もニューカマー!

【メーカーインタビュー】FitEar Silverは搭載ドライバーも開発者もニューカマー!

4月29日に開催された「春のヘッドフォン祭2022 mini」のFitEarブースで先行展示・試聴が行われた新製品「FitEar Silver」について、おなじみ須山社長と開発者・堀田さんのお二人にインタビューしました!謎多きこのモデルの秘密に迫ります!

フジヤエービック店舗イメージ
▶この記事の監修
フジヤエービック(FUJIYA AVIC)
フジヤエービックは販売・下取・買取をWEBサイトでスピード対応。1,000点以上の中古在庫検索、最新のヘッドホン・イヤホンの購入、オーディオプレーヤーやハイレゾ対応機器などのお悩み相談、下取・買取についてなどお気軽にお問い合わせください。

▶SHOP INFORMATION
店舗(東京・中野ブロードウェイ3F)案内はこちら
オンラインストアはこちら

FitEarとは

FitEar(フィットイヤー)といえば日本を代表するカスタムイヤホン(イヤモニ)ブランドであると同時に、その技術を応用したユニバーサルイヤホンのブランドとしても知られているメーカーです。

そのFitEar・須山社長が今年の4月1日(エイプリルフール)にこんなツイートでイヤホンマニア界隈を驚かせました。


一見ネタかと思わせたもののユニバーサルイヤホン・Silverについてはその後製品化が発表され、しかも「4月29日のヘッドフォン祭で展示します」というアナウンスが!これはぜひお話をうかがいたい、と思ったのですが気がつけばあっという間にそのヘッドフォン祭当日…ということで、開場前のお忙しい中、須山社長とSilver開発者・堀田さんにインタビューさせていただきました!

現時点ではまだ発売日や価格も謎のままの「FitEar Silver」とはいったいどんなイヤホンなのか?どのような経緯で誕生したのか?などなど、できる限り語っていただきましたのでぜひお読みください!

※インタビューは感染症対策を施した上で実施しております

FitEar Silver
FitEar Silver

「ひとつ有望なBAドライバーを調達することができた」(須山氏)

――今回はFitEarの新製品となるユニバーサルイヤホンについて、おなじみ須山社長と開発者である堀田さんにお話をうかがいたいと思います。まずは今回の新製品開発のきっかけですが。

FitEar須山社長(以下「須山」):FitEarというブランドを始めたのが2001年なので去年でちょうど20周年、私も今年52歳になりますしそろそろ目や耳がですね…(笑)。ありがたいことに社内の若手スタッフもだんだん育ってくれているので、去年「TG223」「TG333」という製品を通じて”カスタムIEMからユニバーサルイヤホンへの落とし込み”という作業を任せたんですが、それと並行する形で「明確にどういう製品を、というよりまず自分でいろいろ試してみる」という期間を設けながら新製品の開発にも取り組むようにしていました。

今回の新製品の特徴ですが、ひとつは新規採用のBAドライバーユニットにあります。製品の使用目的や音質バランスを決めるBAドライバーユニットですが、数ある機種の中でも現在FitEar製品で利用しているものはそれほど多くありません。トランスデューサーのメーカー/ベンダーさんからは新製品サンプルをご提供いただいてはおりますが、それらの中から採用となるものは数年に1機種程度でしょうか。

そんな中、ひとつ有望なBAドライバーを調達することができたのですが、ではこのBAドライバーをどういう風にウチの製品に活かせるか?と考えた時に「そうだ、ウチの若手に任せてみよう」と思いつきました。今回はこの新BAドライバーを搭載するFitEar初の製品となります。そんな経緯で開発を担当したのがこちらの堀田で、新BAドライバーと同様、この新製品が彼にとってもデビュー作となります。

FitEar堀田氏(以下「堀田」):私がサンプルユニットを聴いた時は、滑らかで艶のある綺麗な帯域はあるものの、シングルフルレンジで使うには金物の鳴りやきらびやかさなどの表現はちょっと不足しているかな?と感じたんです。その辺をツイーターを足すなどして補っていけばさらにバランスが良くなるかなと。

FitEar Silver開発者・堀田さん
FitEar Silver開発者・堀田さん

須山:これまでの開発の仕方からいきなり変わったわけでなく、シングルフルレンジにもうちょっとほしいところを足す、という「FitEar Air」からのアプローチを取り入れた感じですね。堀田も好奇心旺盛で勉強家なので、私の方からは「なるべくシンプルにやってみよう」と提案した程度です。

ドライバーユニットの特徴を生かすというのが理由のひとつですが、ウチの開発思想として、仮にユニットを10個使って実現する音を3個のユニットでシンプルに表現できるならそっちの方がいいだろう、というのがありまして。あとは堀田の手柄です。

もうひとつのトピックとしては、シェルをFitEar製品としては初めて鋳造プロセスで行なっているということです。FitEarの母体は歯科技工所である株式会社須山歯研ですが、1958年の創業から来年の3月で65年という節目を迎えます。歯科技工の中でも特徴的な技術である鋳造を別ジャンルへの応用拡大、製品適用を周年事業のひとつと位置付け、その最初の製品となるのが今回の新製品となります。

――ところでここまで「新製品」と呼んでいましたが、製品名はどうなるんですか?

須山:製品名は「FitEar Silver」に決定しました。

シェル素材そのままの毎度ヒネりのないネーミングですが、名称って先入観を生んでしまう面もあるんですよ。「クラシックっぽい名前の製品でハードロックを聴くのはどうなの?」というように。だったらわりと無機質な名前の方がいいかなと。ウチの製品はジャンル問わずなんでも聴ける、というのを目指してもいるので、悩んだところがあるとすれば「Silver」なのか(元素記号の)「Ag」なのかくらいでしょうか(笑)。

基本的に自社の製品はこれまで自分が作ってきたこともあってあまり褒めないんですが、今回の「Silver」はとても良いものができたのではないかと思っています。

――「Silver」は新BAドライバーありきで開発したのですか?

堀田:この「Silver」に関してはそうです。普段から修行の一環としていろいろなドライバーで試作を繰り返していまして、その中で社長から「こういうドライバーがあるけどどうだ」という感じで渡されたのが、今回の新BAドライバーでした。

「私がいちから設計しています」(堀田氏)

――これまでのFitEarユニバーサルモデルはまずカスタムIEMがあってユニバーサルへ落とし込む、という流れがほとんどでしたが、今回は最初からユニバーサルモデルとしての開発ですね。

堀田:はい、ですので筐体も私がいちから設計しています。耳への収まりの良さを考えて極力小型化したい、というのが念頭にあり、さまざまなタイプの耳型と組み合わせつつ収まり具合をチェックしながら作っていきました。シルバーシェル造形という面ではやはり鋳造というスキルが必要となるため、原型製作やキャストプロセスなど社内の先輩方にも力を貸していただきました。

――デビュー作をいちから作り上げるというのは難しかったのではないですか?

堀田:実はこの「Silver」もデビュー作になるとは当時まったく思っていない状況で作っていました。練習の一環で、とりあえずできることをやってみようという感じでした。

やっていく中で社長から「シンプル」というオーダーがあったんですが、音的にもフルレンジにちょい足しというシンプルさに加え、実際に製品化された際、製造プロセスでのエラーやバラツキが少なくなり、結果良いものができると思ったので、極力この「Silver」に関してはそこを目指しています。

――「シンプル」という課題をクリアしていく中で完成度を高めていったわけですね。

堀田:このシェルに関しても細かいアップデートを繰り返しながら作り上げたので、完成版は6~7代目になります。

穴の径や傾斜、ザグリの深さ、ステム(軸)の長さにもこだわっていまして、たとえばステムも長さによっては奥まで挿入した時にアジア人、特に日本人は耳穴が曲がっている方が多いので、イヤーピースの先がぶつかって音に影響してしまうことも多くあるんですね。そこは今回、付属のAZLA SednaEarfit SE1000に合わせるかたちでステムを設計しています。

――イヤーピースにSednaEarfit SE1000を使う前提の設計だったんですね。

須山:イヤーピースはもちろん個人の好みがあるんですが、これまでのAZLAさんとのやりとりでSE1000というとても良いイヤーピースが手に入ったので、今回はそのSE1000の長所をより生かせるようなステムにしてみようという、これまでの製品よりもう一歩踏み込んだ作り方です。その辺は堀田ならではの意欲的なアプローチではないかと思います。

――ステムの形状としてはTGシリーズで採用されているオーバルステムですが、若干違いもありますね。

堀田:そうです、イヤーピースをステムに深く差し込む位置に維持用の溝を設定し、イヤーピースの装着具合による音質変化を最大限小さくしています。

Silverのステム
Silverのステム

――「Silver」のシェル原型も3Dプリンタによる造形ですか?

堀田:3次元CAD/3Dプリンタです。実は私の耳がベースでして、私の耳型をトリミングして素体を作り、これに前述の狙いに加え、ツイーター側の音導管をホーン型とし高域減衰を抑制するなどアコースティック面にも配慮し設計したステムを組み合わせています。

シェルは全体的にコンパクトにまとめた上で、本体部からステムへの方向も外耳道の平均値から従来より若干修正を加えています。イヤホン形状により装着状態を強制するのではなく、なるべく耳への干渉を小さくすることで個々人の耳型形状への柔軟性を高めています。

AZLA SednaEarfit SE1000の力を借りながら高い装用性と遮音性が得られ、長時間利用しても違和感や痛みが生じないという形状を考えました。

須山:ここ数年の3Dプリンタそのものの進化、それをどう使うかというスキルの進化が大きいですね。

今までできなかったことやアイデアを詰め込むことができる。やってみて聴感でどうだ、という確認もしやすいです。開発スピードは各段に上がりましたね。今まではいったん作ってみて確かめてから次…という感じだったのが、今は一度にいくつものパターンを作ってみていっぺんに試す、というのが可能です。かといって手作業がまったくなくなったわけではなく、デジタルとアナログのスキルをミックスさせて…というのがうまくできるようになりました。

3Dプリンタ導入当時はまだ技術として確立されていない部分も多く、終業後に動作するようセットしたプリンタが途中で動かなくなったり、それをドイツのメーカーとオンラインでやり取りしたりとかもよくありましたが…(笑)。

Silver製造に使用している3Dプリンタ(FitEar提供)
Silver製造に使用している3Dプリンタ(FitEar提供)

堀田:3Dプリンタのいいところは、こちらがデータを送ってしまえばあとは機械に任せきりにできるところです。プリンタが造形している間にルーチンワークの製造や、設計、ネットワークの作り込みといった開発業務など、別の作業を平行して進めることができるようになりました。

須山:あとは手作業と違って、作業するスタッフや季節による出来上がりの差がない、というところですね。クオリティのばらつきが少なくできるというメリットがあります。

製造プロセスはデジタル化しても最終的な仕上げはカスタム同様に手作業なので、どちらかというと時間短縮よりも均質なものができることと、設計の自由度が上がったこと、この2つがメリットとしては大きいですね。堀田はある意味FitEarの中ではデジタル世代なので、私なんかが作業を見ていても「ああ、そういうふうにやるんだ」と感心させられますね。自分が関心を持ったことを具現化するツールとして、3Dプリンタは非常にいいんでしょうね。

これまではアイデアはあっても形にするまでのハードルが高かったんですが、そのハードルがとにかく下がりました。昔は半年くらいかかっていたのが、今では朝のミーティングで話したことが、その日のお昼を過ぎたら「社長、できました!」みたいなこともあります(笑)。

堀田:アイディアをすぐ形にして試してみることができるのはいいですね。

須山:ほぼ最終的な完成品と同じものができるので、実際の耳への収まり具合などもすぐわかるんですよ。

「シルバーならではの楽しみ方をお選びいただければ」(須山氏)

――「Silver」もう一つのトピック、”鋳造”について教えてください

須山:鋳造自体は非常に古い技術で、紀元前4,000年頃にメソポタミアで始まったと言われます。

歯科技工においても古くから使われる中核的な技術で、口腔内という過酷な環境において長期間安全に機能する歯科補綴物を製作する上で、使用する金属、鋳造プロセスは長い時間を経て蓄積されてきたものです。須山歯研でも創業当初から歯科精密鋳造を行い、特に高い適合精度と機会的強度にこだわり自社独自のノウハウを培ってきました。

FitEar社内の鋳造室(FitEar提供)
FitEar社内の鋳造室(FitEar提供)

須山:金属シェルについてはこれまで「FitEar TITAN」と「FitEar DC Ti」で適用してきましたが、これらは”レーザーシンタリング”という、粉体のチタンをレーザーで溶融しこれをつなぎ合わせていく(焼結)というまた別の技術によるものです。鋳造での製作も試したのですが、現状において複雑な内部構造を持つシェルを製作する上では、チタンの物性からレーザーシンタリングの方が有利という判断でした。

今回「Silver」で利用されるシルバーですが、実際に歯科補綴物製作で利用される銀合金(銀:73%/インジウム:9%/亜鉛:10%/スズ:8%)です。歯科用銀合金の適用は歯科技工技術の応用という点とともに、毎日耳に装着してご利用いただくイヤホンゆえ、薬機法(医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で管理医療機器(クラスII)に分類されるメディカルグレードシルバーを採用することで生体親和性にも配慮するという面から決定しました。

シェルの製作ですが、まずは原型となるパターンを3Dプリンタで造形し、これに溶かした金属の流れ道となるスプルーと湯口を取り付けます。これらを耐火埋没材に埋没し、硬化後ファーネス(炉)に入れてパターンを焼却すると鋳型が完成します。

Silverのワックス原型(FitEar提供)
Silverのワックス原型(FitEar提供)

須山:ここに真空加圧鋳造機で熔融した銀合金を鋳造し、硬化冷却後に鋳造体を掘り出してスプルー切除、表面研磨してシェルを完成させるという「ロストワックス鋳造法」で行っています。

鋳造後のシェル(FitEar提供)
鋳造後のシェル(FitEar提供)

須山:このシルバーシェルですが、シルバーアクセサリーと同様、使っているうちに褐色や黒色方向への色調変化が生じます。

「硫化」と言われるシルバー特有の現象でこれ自体が生体親和性に影響することはありませんが、当初「あれっ?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。ですがこの変化こそがシルバーシェルの証でもあり、使い込むうちに渋めの色に落ち着かせるもよし、付属のシルバー用ポリッシングクロスで明るいシルバー色をキープするもよし、シルバーならではの楽しみ方をお選びいただければ幸いです。

――「Silver」の中身についてもお聞かせください。

須山:中身については「新型フルレンジBAユニットの良さをFitEarなりに引き出しました」というのがテーマです。こちらで行ったのは”ちょい足し”レベルですね。

――堀田さん、開発中の須山社長からのアドバイスやダメ出しはどんな感じでしたか?

堀田:何個か試作を持っていったんですが、「シンプルに」以外のことは特にありませんでした。ネットワークと組み合わせるドライバーは最初期から変わっていなくて、筐体やステムの形状についてのアドバイスをいただいたくらいです。

須山:組み合わせるドライバーについては、堀田が「社長、これが良いと思うんですが」と持ってきたものが(うなずきながら)「あー、たしかにたしかに」という感じで文句がなかったんです。

堀田:通称「ドライバー倉庫」というのが社内にありまして、その中からたまたま見つけたものを使ってみたらちょうど良かったんですね、で、それを社長に聴かせたら「いいじゃん」となりました。

須山:実はこちらの”ちょい足し”BAも今までウチの製品では使ったことがないドライバーだったんですね。これ他のモデルでも使えそうだね、と(笑)。

――須山社長にとっては、ご自分以外の方が製品開発することによってまた新しい発見があるのではないですか?

須山:ありますね。これまで開発はほぼすべて私がやってきたんです。製品化に際しても「これをこうして…」と指示するケースが多かったので、今回はもう好きにやってもらおうと。とはいえ堀田もセンスがよい反面、ちょっとこじらせ気味なところもあるので(笑)そこは抑えながらですが。

「楽曲に入っているものを全て逃さず、ありのままに聴きたいんです」(堀田氏)

須山:そうそう、堀田がそもそもなぜFitEarに?という話をしますと…何年か前に「ウチ(FitEar)に就職するには?」なんていうやりとりがSNS上であった時に「ウチは歯科技工所なんでその資格がないと…」なんて冗談交じりに答えていたことがあったんですが、それを見て真に受けたのが堀田でして(笑)。数年後とある専門学校の先生から「ウチの学生で御社に興味があるというのがいるんですが」と連絡が入って、話を聞いてみたら…これは責任問題だぞと(笑)。

もちろんその後面接などを経てからの入社となったわけですが、資格も持っているのでしっかり歯科技工の仕事をしてもらいつつ、やがてイヤホン製作の方に…という流れです。

――ということは、堀田さんは最初からFitEarさんでイヤホンを作るために歯科技工の資格を取った?!堀田:はい、もちろん(断言)。仮にそれがダメでもシルバーアクセサリーや鋳造といった業種にも活かせる技術なので、資格は持っておこうと思っていました。

須山:FitEar製品としても今回、そういう(シルバーアクセや鋳造)新しい取り組みをこの「Silver」で形にすることができました。

――なるほど、そんなお話があったんですね。それでは次に「Silver」のチューニングについてうかがいたいと思います。堀田さんにとっての”リファレンス”とはなんでしょう?

堀田:まず、イヤホン好きになった原体験はド定番モデルの「Ultimate Ears Triple Fi.10」ですね。高いイヤホンとはなんぞや?と聴いてみたら衝撃を受けまして。ある時、そのTriple Fi.10が壊れてしまったのでネットで調べてみると、自分の耳の形に合わせて作り直す「リモールド」というのがあることを知りました。なるほどと思いつつ、当時から工作が好きだったので自分でやっちゃえばいいや、というのが自作イヤホンに手を出した最初ですね。

で、実際にやってみたものの何もわかっていなかったので、フィッティングは悪いし音はスカスカだし…と失敗しまして。そこからいろいろと試して、他社製品もばらして…というパターンです。

ヘッドホンでは「SHURE SRH1540」が好きでした。ローがふくよかでありながら中域に被らず、ハイも滑らかに伸びていく絶妙なバランスが実現されていると思います。自分が取り組んでいるイヤホン、カスタムイヤーモニターとヘッドホンでは音場など異なる要素もあると思いますが、誰にでも受け入れられやすいバランスという面で私のリファレンスと言えるかもしれません。

須山:聴く方のリファレンスは?

堀田:聴く方ですか?うーん…(しばらく悩んで)1曲あるのが声優・内田彩さんの「Everlasting Parade」ですね。

hisakuniさんという作曲家の方が作られた楽曲なんですけれど、かなり音数が多い曲です。きらびやかなところがあったり、もちろん内田さんの声だったりと。そこに対して、聴いた時に自分がここだ、と思うバランスが「これ以上ローが出たら声がつぶれちゃう、ハイが出たらキンキンうるさい」というところで。

もちろんこれだけで評価している訳ではなく(笑)、FitEarとしてチェック用音源がいくつかありまして、The Eagles Hell Freezes overに収録されるアコースティックバージョンの「Hotel California」、Earth Wind and Fire Greatest Hits Liveの「Boogie Wonderland」、Mötley Crüeの「Poison Apple」、メロディック・ハード・キュア「ふたりのせかい」、未確認で進行形OP みかくにんぐッ!「とまどい→レシピ」あたりの楽曲を、音楽ジャンルなどとクロスオーバーさせながら確認をしています。

評価の上で大事にしているのは「普通に聴ける」「違和感がない」に加え、「整理された低域」ですね。低域の扱いについては、社長が聴いた時に「ローが足りなくね?」という音でも、自分が聴くと「これで充分じゃない?」と思うことはよくあります(笑)。

楽曲に入っているものを全て逃さず、ありのままに聴きたいんです。低域の芯はしっかりあるけれど膨らみ過ぎていないか、ボーカルへの被りが無いか、全体としてタイトで高い解像度が実現しているかを評価のポイントとしています。

――オーディオのスタートとしてはスピーカーではなくイヤホンだったんでしょうか?

堀田:実は父親がクラシックマニアで、スピーカーを自作していたんです。今も実家のプレハブの離れでオーディオをやってますけど、私が子供の頃から電源ケーブルまでこだわるオーディオマニアでもあり、”夏の工作”と称して父親と一緒にスピーカーを作ったりすることが日常の生活環境だったんですよ。そういうのがあったのでオーディオの世界に入りやすかったんです。自分で作るのも抵抗ありませんでした。

楽器はやったことがないんですが、いまなら打ち込みとかをやってみたいですね。

――先ほど「Silver」を聴かせていただいて、情報の取捨選択が非常にうまい、ごちゃごちゃした音にならないイヤホンという印象を受けました。

須山:今だったらおそらく難再生曲である「うまぴょい伝説」が世界で一番バランスよく聴けるイヤホンではないかと思います(笑)。

堀田:まずこの新BAドライバーを手にした時、このユニットの良さは何か?と考えました。

シングルフルレンジを想定し、また能率的にもやっぱりある程度限界があるんですが、滑らかさであったり、独特の艶というか有機的なところはこのユニットが持つ美点だと感じました。むやみに解像度を求めず、気持ちよく聴くことができる。パッと聴いてスッと音楽に入り込むことができ「あっ、ここ良いな」という発見がある。スルメのように噛みしめても美味しい仕上がりになったのではないかと思います。

正直最初は「なんでこのユニットを?」という疑問もあったんですが(笑)、最終的にはこのBAドライバーを使っている意味は充分にあったのかなと。

須山:それこそ「うまぴょい伝説」の一番最初のファンファーレが鳴って、場内放送が始まって、位置について…まではいいんですけど、そのあとの「よーい」がだいたいひずみっぽく聴こえるんですよ。そこで当たりはずれがある程度わかってしまう。Groovin’ Magic」の最初の「アー」でわかるのと同じですね。

「Silver」ではそのあたり、自画自賛というか堀田を褒めちゃいますが絶妙のバランスになっています。

堀田:本当の自分の好みだと少し地味になりがちなので、Silverでは多くの方に聴いていただいた時に「あっ、これいいよね」と言っていただけるような明快さを意識してツイーターを選択しました。フルレンジユニットを補助する上で必要とされる帯域をしっかりとカバーしながら、ピークや金属的に過ぎる音に目を配り、すりガラス的な音…、歪み感が無くなめらかかつシルキーな中高域、トータルとしてもクセの無い素直なバランスを心がけました。

この話はしていいのかわからないんですが…次に考えているものとのキャラ分けというのもあって。本来の自分が好きなバランスは次に出すものかなと…社長次第ですけど。出せたら嬉しいなと。また「TITAN」からの「Air2」のように、「Silver」の樹脂シェル版の企画も…。

須山:もう色々と次が控えてます(笑)。

「Silver」はメタルシェル適用の記念モデルといった位置付けもあり、ユニバーサル機では高額な部類に入りますが、堀田としてはそんなに高価格帯なものよりも、沢山の方にご利用いただきたいという希望があるので、その辺りまたご期待をいただければ幸いです。

「生の音を聴いてみる機会は増やすと良いかも」(須山氏)

――それでは、今回めでたくデビューを果たした堀田さんへ、須山社長からメッセージをお願いします。

須山:そうですね…「安心すんな、心配すんな」というところでしょうか。いや、そんなに深い意味はないんですが(笑)。

彼はまだ若いし時間もあるので、そんなに焦らなくてもいいよと。それと機会があれば、長年ご指導をいただいている原田光晴さんをはじめ、その道の専門家との交流機会が増えると本当の力になると思います。

堀田:そうですね、そうしたプロフェッショナルな方々にはチャンスがあれば是非ご指導をいただきたいです。

須山:あとはライブの音、というより生楽器の音をしっかり聞いた方が良いよと。例えばドラム、しかもシンバル・ハットの音に違和感がないかどうかというのは、自分が叩いた生の音とのすり合わせが一番しやすいので。生の音を聴いてみる機会は増やすと良いかも知れない。

本当の生の音ってなかなか聴く機会がないと思うんですよ。サンプリングされた音はあるけど、それとはまた違う音というのもある。これはこういう音がするんだ、という実体験をしておくのは判断も元に戻りやすいと思います。リハーサルスタジオとかでいろんな音を出してみるとか、あとはデカい音で聴いてみるとかすると役立つかな。ベースの役割とかキックの位置などもわかるようになるので。クラシックなどもどまん中最前列のホールの影響が出ない場所の音を聴くのは楽器の音を知る上では勉強になります。

一方オーケストラってステージに実際には存在しないものの音”が出てるんですよ。例えばバイオリンにヴィオラやチェロ、コントラバス、金管楽器の音が混ざり合うことで「ブオオオワッ」と迫り来る嵐を表現したり、他にも春の朝の光を再現したりと。そうしたものを今度は少し下がった席で感じるのも表現のあり方としてとても参考になる。

堀田:その辺の経験不足は自分でも感じていて…。自分がオタクなので好きな声優さんとかのライブにはめちゃくちゃ行くんですけど、自分で楽器を触るという経験は乏しいんです。ちゃんとしたものを知っていきたいという欲求もあるし、その必要もあると思いますね。

「目標は『普通の音』」(堀田氏)

――堀田さんの「今後の野望」を聞かせて下さい。

須山:「給料上げろ」?(笑)

堀田:それもありますが(笑)、最終目標としては自分が満足するものを作りたいというのがまずあるんですが、ただそれを追求するだけでは独りよがりになってしまうと思うんです。せっかくメーカーとしてやらせてもらっているので、自分の好きなものではあるけれどもそれを万人に向けて発信して、より多くの方に評価していただけるようなものが作れればと考えています。

目標は「普通の音」、楽曲に内包されている情報を漏らすことなく、それでいて違和感を感じさせない、そんな音です。

須山:(自分は)DC Tiで満足しちゃったからなあ…(笑)。

――でも、こうして新しい方から新しいものが出てくると刺激がありますよね。

須山:ええ。新しいドライバーユニット、というのもそうですし、出来上がったもので「こういう表現方法があるんだ」「それは気づかなかった」と感じることがちょいちょいあるので…。かといって、もう視力も衰えたので何かやろうかと思っても「まあいいか、面倒だし…」となってしまうという(笑)。

その辺はお互い協力して、というのかアイディアを出し合って、というのか、弊社には歯科技工/補聴器系のベテランスタッフ、堀田をはじめ他にもまた優秀なスタッフがいるので、彼らと新しいものについても引き続き生み出していければと思っています。

――最後に堀田さんからひとことお願いします。

堀田:「Silver」はユニット特性を最大限生かし、ジャンルに寄らずいろんな音楽が聴ける、そんなイヤホンを目指しました。その上で個人的に聴いていただきたいのは…やっぱり内田彩さん!(笑)ぜひ「Silver」で音数が多い楽曲を聴いていただきたいですね。

新型コロナウイルスの影響で、ここ2年ほどイベントが開催できないという状況は本当に残念でした。そんな中、久しぶりに開催された「春のヘッドフォン祭2022 mini」、「Silver」は最初に出す製品なので思い入れもありますし、会場で聴いていただいた方から直接レスポンスをいただいたり、新しい関係を築いたりというのはしてみたいですね。あとは自作畑出身なので、また技術者同士の交流の場としてもイベントの再開に期待しています。

限定開催ということもあり会場にお越しいただくのが難しい方も、機会がありましたらぜひ店頭でお試しいただければと思います。

ヘッドフォン祭・FitEarブースに立つ堀田さん
ヘッドフォン祭・FitEarブースに立つ堀田さん

――須山社長、堀田さん、お忙しい中インタビューにお答えいただきありがとうございました!

今回のインタビューでお話を聞いた新製品「FitEar Silver」の発売日および価格は現時点で未定となっておりますが、こちらは決定次第改めてお知らせいたしますので今しばらくお待ちください!

Page Top