Astell&Kern A&norma SR35をレコーディングエンジニアの太田タカシさんがレビューします。ハイレゾDAPは初めてという筆者が、細部の音やボーカルの息遣いまで見えるという音質についてエンジニアの視点から詳しく紹介します。
目次
はじめに
Astell&Kern A&normaシリーズの特徴
A&norma SR35の特徴
A&norma SR35の音質レビュー
iPhone との比較レビュー
まとめ
みなさんこんにちは、レコーディングエンジニアの太田です。
今回のレビューはハイレゾDAP(デジタルオーディオプレーヤー)「Astell&Kern A&norma SR35」です。ポータブルプレーヤーに関して言うと、以前はウォークマンやiPodで音楽を聴くことはあったのですが、今はiPhoneで聴いています。そのため、ハイレゾDAPの存在は知ってはいたのですが、聴く機会がなかったので実際にどのようなものなのか楽しみです。実際に触りながら確認していきます。
「A&norma」はハイレゾDAPの代表的なブランドであるAstell&Kernによるスタンダードラインの製品シリーズです。同ブランドのプレミアムなサウンドをコンパクトサイズで楽しむために誕生したシリーズで、声DAPとも言われるボーカル帯域での艶感に特徴のあるシリーズとして知られています。
A&norma SR35は、「Hi-Fi Sound on-the-go」をスローガンに、フラッグシップライン製品に施された新世代アンプ技術やオーディオ設計を応用し、高音質・コンパクト・長時間再生と、ポータブルオーディオプレーヤーの3つのキーポイントを高次元で両立したモデルとなっています。
まずは外観から詳しく見ていきましょう。
本体はコンパクトながら堅牢さを感じる重みがあります。デザインは四角い本体に斜めにディスプレイが搭載されている独創的なデザインですが、実際に手に持つと手首が楽な角度で画面が真っすぐに見れる機能的なデザインです。
続いて背面を見てみましょう。同じく斜めのデザインを受け継ぎながらシンプルでスタイリッシュです。
ボタン類は左側面に4つ、一番上のボタンが電源ボタンです。上面に向かって若干傾斜しています。ここもブランドのこだわりを感じるデザインですね。
右側にはコントロールダイヤルがついています。
入力はUSB-Type Cを採用。充電とデータ転送のみの仕様となっています。
出力は3.5mm3極アンバランス出力と2.5mm4極バランス出力 / 4.4mm5極バランス出力 (GND接続あり)です。
DACは空間表現と解像度に定評のあるCirrus Logic社製Master HIFI DAC「CS43198」を4基(L/R各2基)搭載しています。そしてアンプも4基(L/R各2基)搭載してます。
ポータブルなのにここまでやるとは...
新設計のオーディオ回路とフラッグシップモデルでも搭載されたアンプ技術で脅威的なSN比と低クロストークを実現、そしてTERATON ALPHAテクノロジーで効果的な電源ノイズの除去、効率的な電源管理、歪みの少ない増幅を実現してアーティストやプロデューサーが意図した原音の忠実な再生をしているとのことです。
今回の視聴環境ですが、A&norma SR35にApple Musicをインストールしてヘッドホンとスピーカーで試聴します。
まずはスピーカーで試聴しました。最初に耳を惹かれたのが基音の艶やかさです。歌モノのJAZZを流していたのですが何も知らずに、一緒に音を聴いたアーティストが思わず「声が前に出てる!」と言うほど、さすが"声DAP"の異名を持つプレーヤー。確かに女性ボーカルは息遣いまで立体的で耳に痛い感じがしません。
アコースティックのピアノやメタル系のエレキギターも印象がよく、地に足がついたサウンドで、スピーカーの存在感を消してしまうほどその場で音楽が鳴っているような感覚を覚えました。
音の厚みがしっかりと出ていながら奥行も感じられるので、空気感だけ感じるということがなく、また、低域が潰れてしまうということもなく、輪郭まで見えてすごく余裕を感じる低域感です。
次にヘッドホンで試聴していきました。やはり印象としてはスピーカーで聴いた時と同じ傾向で"声DAP"の異名を遺憾無く発揮するボーカルの艶やかを感じます。
特にHiFiMAN ANANDA NANOではベースが楽曲の全体を支えつつ、曲のタイム感を司るという本来の役割をしっかり感じることができます。Signature MASTERでは、曲の細部を見てとれるような楽しい感覚さえ感じ取れました。
ポータブルで聴くときはいつもiPhoneで聴いていますので、比較しながら試聴しました。
交互に聴いていくと、とにかく専用再生機であるDAPの存在意義を感じます。iPhoneはとても便利で手軽に音楽を聴けるツールなのですが、やはり音楽再生専用であるDAPと比べると奥行きの再現性や前後感、低域の豊かさや厚みに少し寂しさがあると感じていしまいます。
それは、楽曲を提供する側のアーティストも同じように感じたようで、普段レコーディング時に使用しているMDR-CD900STをA&norma SR35に繋いで一緒に試聴していたアーティストが、「これMDR-CD900ST!?この音はレコーディングしたときの音!」と驚きの声をあげていました。そのくらい細部の再現度に違いがあると思います。
ポータブル音楽プレーヤーというと、かつてのiPodのように自分でsdカードに音楽データを入れないと音楽が聴けないと思っていましたが、実際にはスマホと同じくApple MusicやSpotifyをダウンロードできて、スマホに近い操作感で使うことができました。
実は僕のようにDAPに対する印象が止まっていたり、知らないという方も結構いると思うので、ぜひ一度触ってみることをおすすめします。
今回は「声DAP」Astell&Kern A&norma SR35を試聴しましたが、音楽を楽しく聴けるようになることはもちろん、持ち運びができるので、いつでもどの場所でも良い音を聴ける、生活を豊かに感じさせてくれるものだと改めて思わせてくれるDAPでした。
エンジニアは、ミュージシャンの楽曲を良いバランス、良い音で皆さんにお届けするためにミックスやマスタリング処理をします。A&norma SR35は、そんなミュージシャンやエンジニアの意図をしっかり"再生"してくれるDAPだと思います。
その、ミックスやマスタリングの再現性や処理の細部まで見えるような音は、たくさんの人に聴いていただきたいポイントなのですが、残念ながら安価な環境ではなかなか聴き取ってもらえないのが現状です。
実際にマスタリングの処理は、そういったあまり良くない環境でもそれなりに聞こえる音作りを意識せざるを得ないのですが、ハイレゾDAPで聴いてくれる人が増えたらマスタリングも楽しくなるのになとも思ってしまいました。
A&norma SR35 は、「声DAP」という異名の通り、ボーカルの再生能力が高く、同じ帯域に音が多くなるリード楽曲も同様に細部の音やボーカルの息遣いまで見えてくるので、A&norma SR35 で聴くだけで音楽が楽しくなります。ボーカルものが好きな方はもちろん、ジャズやクラシック好きな方にもおすすめです。(意外にも?メタルも良かったですよ。)
【商品情報】Astell&Kern A&norma SR35
» 詳細を見る