Meze Audio Empyrean
等磁力ハイブリッド配列平面磁界型ドライバー採用した、音質、デザイン、装着感、全てにこだわり抜いたフラッグシップヘッドホン(ジェットブラック)
その金属工芸品のような美しいデザインと特殊な平面(平面磁界駆動型ハイブリッドタイプ)振動板による、これまた美しい音質が話題となったルーマニアのメーカーMeze Audio社のハイエンドヘッドホン。もともと99シリーズなどで、いかにもヨーロッパらしい巧みな金属加工による繊細なデザイン性の高さが人気だったMezeヘッドホンですが、そのセンスが最大限に発揮されたのがこのEmpyreanではないでしょうか。 今回は試聴レビューをご紹介します。
他のハイクラスヘッドホンと一線を画す唯一無二の外観からはほとんど変わっていませんが、春の段階ではメインカラー?がシルバーだったのですが、秋の本番使用はステー部が銅色に、ヘッドホン外殻部分がクロームメタリック調になり、落ち着いた雰囲気を醸し出すようになりました。こうしてみると、全体的に曲面で構成された柔らかなデザインであることがわかります。特にこのハウジンググリルは、ちょっとした美術品レベルの仕上がりです。
ヘッドバンド側はさりげなくカーボンパターンが浮かび上がります。重量は430gと、ヘッドホンとしてはさすがに軽いとは言えない数値。ですが、絶妙なカーブがつけられたレザーヘッドレストがうまく荷重を分散してくれるようで、装着した実感としてはそれほど重く感じません。
このクラスではほぼマストとなった、リケーブル対応。ヘッドホン側のケーブルコネクタは左右独立の4pinのミニキヤノン。リケーブルも比較的容易なタイプです。本国では別売の純正XLR/2.5mm/4.4mmバランスケーブルも出ていますが、国内では今のところアナウンスなし。なお購入時に3.5mmステレオミニプラグ(1.3m)または6.3mm標準プラグケーブル(3.0m)を選択します。
現在はスタンダードケーブル、PCUHD(高純度OFC銅線)アップグレードケーブル、銀メッキを施したPCUHD(高純度OFC銅線)シルバーアップグレードケーブルの3種類で純正XLR/2.5mm/4.4mmバランスケーブルが発売されています。また、仕様変更にともないジェットブラックモデルには「PCUHDシルバーアップグレードケーブル(6.3mmプラグ)」が、ブラックコッパーモデルには「PCUHDアップグレードケーブル(6.3mmプラグ)」がそれぞれ標準添付となります。
イヤパッドはアルカンターラとリアルレザーの2種類が付属します。通常のヘッドホンのイヤパッドの倍くらいの厚みがあり、耳をすっぱり覆うオーバージイヤータイプらしく、またこの分厚いイヤパッドが本体の重さを感じさせず長時間装着しても疲れにくい点に貢献していると思います。ヘッドホン本体とは磁力で装着する”ISOMAGNETIC”とメゼが呼ぶタイプなので脱着は容易。
平面駆動ドライバの上部に低域再生の効率に優れた帯状の”スイッチバックコイル”下部に中高域再生の効率に優れた円状の”スパイラルコイル”をそれぞれ配置するという、Empyrean最大の特徴である世界初の「平面磁界駆動型等磁力ハイブリッドデュアルコイルドライバー」 “ISODYNAMIC HYBRID ARRAY DRIVER”が収まるハウジング内部。ここにもヨーロピアン調のデザインセンスが光ります。
余談ですが、中央下部のボタン状のパーツはなんだろう?これももしや音質調整に重要な役割を果たしているのでは・・・?と思いメーカーに確認をとったところ「ドライバを開発したウクライナRINARO社のロゴが入った飾りです」とのことでした。
ドライバそのものを複数搭載したヘッドホンはこれまでもいくつかありましたが、異なる形状のコイルを同一平面上に配置、というのはちょっと記憶にありません。視覚的なユニークさは充分に伝わってきますが、はたして音へはどう影響するのか?!
一聴すると、上品で素直な音という感じではあるのですが、じゃあちょっと音量を上げてみよう、とするとこのEmpyreanの実力に初めて気がつきます。
ボリュームを上げてもまったく音が歪まない、帯域バランスが崩れない。
これ、当たり前のような感じもしますが、実はそんなことありません。ヘッドホンの試聴にはぜひお試しいただきたいのですが、同じ曲を音量を小さくしたり大きくしたりしつつ聴いてみてください。ボリュームを下げたらボーカルが引っ込んでしまう、上げたら低域が歪んで他の音域が聴こえない、というような「バランス崩れ」の経験、ありませんか?
ところがEmpyreanではそれがない。音量を上げていっても嫌な刺激がないのです。(注意)反面、調子に乗ってどんどん音量が大きくなってしまうのでここはご注意を。
前述の通り、アルカンターラとレザーという2種類のイヤパッドが付属するのでそれぞれを聴き比べてみると、
アルカンターラ・・・音抜けの良さ、音場の広がり重視
レザー・・・低域強調、音場の密度間重視
という具合に、こんな違いでさえ、しっかりと音の差が出てきます。
楽曲やジャンルを選ばず使えるヘッドホンを指してよく「オールマイティ」という表現がされますが、このEmpyreanはどちらかというと「聴く曲ごとに別の顔を見せる」ヘッドホンで、まるでジャンルごとにまったく別のヘッドホンで聴いているような感覚をおぼえます。ソースを素直に再現する、という言い方でよいかもしれませんね。
全体の音質としてはスピード感と若干のドライさを感じさせつつもストレートな音色で、低域の量感は最低域まで伸びている割にレベルは控えめですが硬質で質感充分、という印象は変わらないものの、生楽器を鳴らす時は伸びやかな高域と躍動感で聴かせ、打ち込み系ならタイトな低域とバシッと決まるアタック感で楽しませ、ボーカルははっきり目の前で歌われているようなリアリティをしっかり表現。
丁寧にデザインされたプロダクト、音楽を楽しむオーディオ製品としての魅力。これほど高いレベルを両立させているヘッドホンも珍しいのではないでしょうか。ヘッドホンアンプもそれなりのものを要求される非常に質の高い製品ですがとにかくヘッドホンリスニングを愛する皆様にはぜひ一度聴いていただきたいヘッドホンです。