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2023.05.12
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SONYモニターヘッドホン比較 MDR-CD900ST / MDR-M1ST / MDR-MV1 × 太田タカシ|プロのエンジニアによるヘッドホンレビュー

SONYモニターヘッドホン比較 MDR-CD900ST / MDR-M1ST / MDR-MV1 × 太田タカシ|プロのエンジニアによるヘッドホンレビュー

SONYのモニターヘッドホンMDR-CD900ST、MDR-M1ST、MDR-MV1をレコーディングエンジニアの太田タカシさんが比較レビューします。レコーディングやDTM音楽制作、リスニング用途として活躍する3種それぞれの特性を紐解きます。

太田タカシプロフィール画像
■ ライタープロフィール
レコーディングエンジニア 太田タカシ
1984年千葉県出身、バンド活動をする傍ら専門学校でレコーディングを学び、卒業後は音楽事務所のスタジオに勤務しレコーディングをしつつアレンジの基礎と制作進行を身につけた。その後、リハーサルスタジオ内のレコーディングスタジオでレコーディング・ミックス・マスタリング業務に従事した後、フリーランスに転身。現在はレコーディングの他にもサウンドプロデュースや若手の育成にも力を入れている。
主な作品参加アーティストはIndigo la End・ゲスの極み乙女。・リーガルリリー・グソクムズ・20th Centuryなど。近年はゲーム音楽やVtuberの作品にも参加している。
Twitter:@tario_ Instagram:@tario_

はじめに

みなさんはモニターヘッドホンについてどのような印象を持っていますか?フラット?正確?再現性が高い?さまざまな感想があると思います。

スタジオモニターヘッドホンといえば音漏れしない密閉型が定番でしたがここ数年各メーカーが従来の密閉型だけではなく背面開放型モニターヘッドホンを発表しています。

そんな中SONYから新しいスタジオモニターヘッドホンが発表されました。それがまさかの背面開放型...!?気になっている方は僕だけではないのではないでしょうか?

そこで、今回は定番のMDR-CD900STと2019年に発売されたMDR-M1STそしてこの度発売となったMDR-MV1の3つを比較試聴していきたいと思います。

SONYのモニターヘッドホンについて

まず試聴を始める前にSONYのモニターヘッドホンの概略をおさらいしましょう。

年表の画像

SONYのモニターヘッドホンを語る上で外せないのがMDR-CD900STではないでしょうか?発売は1989年と30年以上前から販売されており、今もほとんどのレコーディングスタジオで標準的に使われているヘッドホンで、音響の仕事を志す人は皆1台は持っていると言っても過言ではないヘッドホンです。制作現場における「共通言語」的な立ち位置のヘッドホンともいえると思います。

そんな共通言語といえるモニターヘッドホンを作ったSONYが30年の時を経て新しく作ったモニターヘッドホンがMDR-M1STです。こちらはMDR-CD900STの後継機という位置付けではなく、新しい選択肢として開発されました。

[DEEP INSIDE VOL.9 ] 8/23発売のスタジオモニターヘッドホン "MDR-M1ST" の開発秘話を語って頂きました!【独自取材】

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 [DEEP INSIDE VOL.9 ] 8/23発売のスタジオモニターヘッドホン

MDR-M1STは新しいレコーディングスタジオやMDR-CD900STとの入れ替えで導入されていることが多いと思います。

SONYのモニターヘッドホンは、どこのレコーディングスタジオに行っても必ずと言っていいほど置いてあり、レコーディングスタジオとSONYのモニターヘッドホンは切っても切れない存在になっているといえるでしょう。

レコーディングの現場では鉄板といえるSONYのモニターヘッドホンですが、ミックス・マスタリングの現場においてモニターヘッドホンは群雄割拠の状態で、エンジニアによってメインとしているヘッドホンは様々です。そんな中、過度な味付けがなく音の立ち上がりがしっかり見えるSONYのモニターヘッドホンは選ばれやすい傾向にあります。

また、ここ数年はプロ用の音響メーカーから背面開放型のモニターヘッドホンの発表が増えてきており、開放型ヘッドホンが好きなエンジニアは意外と多いです。

しかしながら、所謂「モニターヘッドホン」という立ち位置のヘッドホンが少ないため、MDR-MV1は、エンジニアのニーズにマッチしながら360VMEというSONYの立体音響技術にも対応していることからも、立体音響のリファレンスモニターになっていくのではないでしょうか。

それでは各モニターヘッドホンを聴き比べていきたいと思います!

SONYの各モニターヘッドホンの特徴と音質傾向比較

仕様比較

MDR-900ST

MDR-M1ST

MDR-MV1

MDR-900ST商品イメージ
MDR-M1ST商品イメージ
MDR-MV1商品イメージ
形式

密閉ダイナミック型

密閉ダイナミック型

オープンバックダイナミック

ドライバーユニット

40mm,ドーム型(CCAW採用)

40mm,ドーム型(CCAWボイスコイル)

40mm

最大入力

1,000mW

1,500mW(IEC)

1,500mW(IEC)

インピーダンス

63Ω

24Ω(1kHzにて)

24Ω(1kHzにて)

音圧感度

106dB/mW

103dB/mW

100dB/mW

再生周波数帯域

5~30,000Hz

5~80,000Hz(JEITA)

5~80,000Hz(JEITA)

コード長さ

2.5m

約2.5m

約2.5m

プラグ

ステレオ標準プラグ

ステレオ標準プラグ

ステレオ標準プラグ(φ3,5mm変換プラグ付き)

質量

約200g(コード含まず)

約215g(コード含まず)

約223g(コード含まず)

試聴環境

Mac MiniとAPOGEE Symphony I/O(2x6)で試聴の画像
Mac MiniとAPOGEE Symphony I/O(2x6)で試聴

試聴環境はMac Mini(2018)でApple MusicとProToolsを立ち上げてAPOGEE Symphony I/O(2x6)のヘッドホンアウトから出力して聞いていきます。

Apple Musicをロスレス配信で、ProToolsからは、制作中の音源を試聴していきます。

MDR-CD900ST

まずはMDR-CD900STです。

MDR-CD900STの画像
MDR-CD900ST

こちらは僕の私物なのですがイヤーパットを交換してあります。MDR-CD900STを2台持っていて1台はリケーブルやプラグ交換などカスタマイズしてしまったので今回はこちらのイヤーパット以外は、純正のもので試聴していきます。

MDR-CD900ST正面
正面

見た目はなんでしょうか、見慣れ過ぎててコメントが出てきません。。(汗
いつものアイツみたいな安心感があります。レコーディングスタジオで演奏者用のヘッドホンとして使用しようとしたら違うメーカーのヘッドホンが出てきたら不安になるくらい、いつものアイツです。

MDR-CD900STをいつ使っても最初に感じるのは、少し硬めの音色と立ち上がりの速さです。
低音感は今のヘッドホンに慣れてる人には物足りないかもしれないですが、演奏者のモニタリングとしてのタッチ感の表現やレコーディング・編集作業ににおけるノイズの詮索のしやすさは、これだよなという安心感があります。
センター感が3つの中では一番薄いですがで音場が散っているわけではないのでLRがすごくしっかりしており、ダイレクトに出音がくる感覚があります。

MDR-M1ST

次にMDR-M1STです。

MDR-M1STの画像
MDR-M1ST

レコーディングスタジオで音は聴いたことがあるのですが、じっくり聴くのは初めてでした。
見た目はいつものアイツが洗練されたという感じです。MDR-CD900STから意匠を受け継いでおり、モニターヘッドホンとして受け入れやすい感じがとても好印象です。

イヤーパッドもヘッドパットもMDR-CD900STよりもクッション性が強いので、長時間つけていても痛くなりません。ケーブルも脱着式になっているのがとてもGoodですね!長く使っていると一番ダメになりやすいところなので交換できるのは最高です。

MDR-M1ST正面の画像
正面

肝心の音ですが試聴した最初の印象は「今っぽい」でしょうか。低音の量感がMDR-CD900STよりも多く、センターが低域から高域まですごくしっかりしているのでベースが散らずに真ん中でしっかりと定位しています。

MDR-CD900STと比べると低域が出ている分高域は落ち着いて感じます。音場は広くなくダイレクトな印象なのはMDR-CD900STに似た印象です。この低域の量感の違いから演奏者は特にこちらの方が好きという人が多いかもしれません。
LCRがしっかりしていて低音が多いので、編集時のノイズチェックにおいてはMDR-CD900STの方がしやすいのではないでしょうか。低域の定位感はとても好印象でした。

MDR-MV1

そしてMDR-MV1です。みてくださいハウジングに穴が開いてます。笑

MDR-MV1の画像
MDR-MV1

背面開放型なので当たり前ですが、長年ほぼ毎日のようにSONYのモニターヘッドホンを見ている僕からすると見慣れないので不思議な感じがします。

不思議な感じがするもうひとつの理由が、MDR-M1STと同じようにスタジオモニターとしての意匠を受け継いでいることもあるかもしれません。デザインの説得力の高さというのでしょうか。プロの道具であるという佇まいがあります。

こちらもケーブルは脱着式です。
重さも見た目以上に軽く、クッション性も含めて装着感が、MDR-M1STよりもさらに向上していると思います。開発経緯や用途的にも、より長時間装着することを想定されているからでしょうか。

MDR-MV1正面の画像
正面

音の傾向としては、センターラインの解像度やステレオの音場感はMDR-M1STと似た傾向を感じますが、わかりやすい違いはMDR-M1STよりも低域に若干の広がりを感じるところでしょうか。とはいえ、おもしろいと思ったのが通常の開放型ヘッドホンのような広がり方はしていないところです。

開放型ヘッドホンは音の広がりがある代わりに少し音を遠くに感じたり、解像度が少し落ちる感じがすることが多いのですが、MDR-MV1はあくまでもモニターとしての距離感と解像度を持っており開放型なのにダイレクトに音を感じるヘッドホンです。
若干低域が広がると前述しましたが、あくまでもMDR-M1STとの比較であり、他の密閉型ヘッドホンと比較してもしっかりと見える感じがありました。

それぞれどのような用途に向いている?

これまで3つのヘッドホンを試聴してきましたが、それぞれどのように棲み分けできるのか考えてみました。

MDR-CD900ST

レコーディングスタジオにおけるモニターヘッドホンとしては現役でNo.1のシェアです。音楽制作、映像制作、ライブPA現場でのリファレンスとしてしての地位はまだまだあると思います。

価格差もありますのでMDR-M1STにとって変わられることはまだ先のことではないでしょうか。しかし、リスニング用途としては、低域の量感などから少し物足りなさを感じるのも事実でしょう。

【商品情報】SONY MDR-CD900ST

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SONY MDR-CD900ST

MDR-M1ST

現在の技術で新しいモニターヘッドホンとのコンセプト通り、定位感・低音感もありつつモニターとして重要な解像感もしっかりあるので音楽制作用途としてはもちろんリスニングにも適していると思います。

DTMで音楽制作をしている方の普段使い兼モニターとしておすすめしたいヘッドホンです。新しい基準ができるのではないでしょうか。

【商品情報】SONY MDR-M1ST

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SONY MDR-M1ST

MDR-MV1

MDR-M1STの音感を受け継ぎつつイマーシブ(立体音響向けのミックス処理)オーディオにも対応するヘッドホンです。長時間つけていても疲れない機構もサウンドも高いレベルなので打ち込みやライン録音、ミキシングやマスタリング、モニターライクな環境でイマーシブオーディオを楽しみたい方はファーストチョイスになってくるのではないでしょうか?
※イマーシブオーディオを体験するためには対応したアプリとストリーミングサービスが必要です。

ただ、開放型という特徴からマイクを使ったレコーディング時や外での使用は音が漏れるので向いていません。
イマーシブオーディオに関するミキシングエンジニア向けのソフトウェアも提供されており、その専用ヘッドホンでもあるようなのでエンジニアである僕も目が離せない製品になりそうです。

【商品情報】SONY MDR-MV1

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SONY MDR-MV1

3モデルを比較してみて

MDR-CD900ST / MDR-M1ST / MDR-MV1の画像
MDR-CD900ST / MDR-M1ST / MDR-MV1

最後に、ヘッドホンのレビューを制作するにあたって音源を試聴しながらレビューしてきたわけですから、では、どのような音楽を聴くのに向いているの?と聞かれるかもしれません。

3つとも共通してお伝えできるのが、向いている音楽も向いていない音楽もない。ということです。
何を言ってるんだ思われてしまうかもしれませんが、個人的にはそれがモニターヘッドホンのあるべき姿だと思っています。それは、3つとも音色はそれぞれ違えど出てる音に「脚色を加えずに再生する」を見事に形にしているプロの道具だと感じています。

このヘッドホンでこのジャンルを聴くと感動するとか気分が上がるというマジックみたいなものはないですが「これは今この音です。」をいつでもどんな音でも出してくれる。そんな信用のできるヘッドホンです。

まとめ

・レコーディングスタジオで標準的に使われているモニターヘッドホンMDR-CD900ST
・MDR-CD900STは、少し硬めの音色と立ち上がりの速さが特徴
・低音がセンターが低域から高域までしっかり感じ取れるMDR-M1ST
・モニターとしての距離感と解像度、開放型なのにダイレクトに音を感じるMDR-M1ST
・「脚色を加えずに再生する」を見事に形にしているプロの道具であるSONYのモニターヘッドホン

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