Violectricヘッドホンアンプ「DHA V590-2Pro」をレコーディングエンジニアの太田タカシさんがレビューします。低域から高域、大きい音から小さい音までしっかり鳴らしてくれるヘッドホンアンプDHA V590-2Proをエンジニアならではの視点で紐解きます。
目次
はじめに
Violectricとは
Violectric DHA V590-2Proの特徴
Violectric DHA V590-2Proの音質レビュー
特に開放型ヘッドホンとの組み合わせがおすすめ
製品仕様
まとめ
こんにちは、レコーディングエンジニアの太田です。前回、前々回はヘッドホンについてのレビューでしたが今回はヘッドホンアンプのレビューです。
先日、中野サンプラザで行われた春のヘッドフォン祭2023にお邪魔したのですが、その時にも各メーカーさんから様々なヘッドホンアンプが紹介されていました。音楽制作の現場でもプロデューサーやディレクター、作曲家/アレンジャーが自宅に導入したり、レコーディングスタジオに持ち込んでサウンドチェックをすることが増えてきていることも実感しています。
そんな盛り上がりを見せてるヘッドホンアンプから、今回はViolectric DHA V590-2Proをレビューしていきます!
某大先輩のエンジニアさんからもおすすめされたメーカーなのでとても楽しみです。
Violectricは2009年にドイツで設立されたブランドです。レコーディングエンジニアやオーディオ愛好家向けに、ヘッドホンアンプ、プリアンプ、デジタルアナログコンバータ(DAC)などのハイエンドオーディオ機器を製造しています。
Violectricの製品は、高品質な音響再生と信号処理を追求することに重点を置き、高い解像度、低い歪み、ノイズの少なさ、信号の正確な再現性を特徴としています。ヘッドホンアンプは特に評価が高く、さまざまなヘッドホンやイヤホンとの互換性があり、アンプ部だけでなくDACの性能においてもプロアマ問わず高く評価されています。
それでは早速DHA V590-2Proをみていきましょう。
本体の他に付属品としては電源ケーブル、USBケーブル、ユーザーマニュアル、クイックガイド(英語・ドイツ語)です。日本語のマニュアルはありません。web翻訳を使いつつ、噛み砕いて説明していきます。(マニュアルは読み応えある面白い内容でした。)
外観はマットで堅牢な見た目が目を惹きます。華美な感じはなく、それでいて安っぽくもない。黒というカラーは、スタジオ機材との組み合わせがしやすくて好きなカラーです。無駄のない職人的なデザインがプロの仕事を醸し出していますね。
フロントパネルを見ていきます。基本的にシンプルで無駄がなく、初見でも操作に戸惑わないデザインが素晴らしいです。それだけそのままの音に自信があるということでしょうか。
構成は左からツマミ類がボリューム、左右のバランス、スイッチ類が左からアナログインプットセレクト、デジタルインプットセレクト、アウトプットセレクトです。出力は6.3mm(1/4")ヘッドホンアウト、4Pin-XLRのバランスアウト、4.4mmのバランスアウトの3種類に対応しています。
続いてリアパネルです。
左から電源コネクター、デジタル入力セクション、アナログ出力セクション、アナログ入力セクションと並びます。電源はIECコネクターですね。個人的にはこの形状を採用しているとプロの機材という感じがして安心します。
デジタル入力部はUSB、Optical、Coaxial、AES/EBUの4種類と主要な形式に対応しています。
プロ用の規格のAED/EBUがあるのはポイントが高いですね。USB接続においてはDSDも再生できるのでDSD好きにも嬉しい仕様ではないでしょうか。
アナログの入力部はRCAが2系統、XLRが1系統です。フロントパネルやリモコンでセレクトできるのでいろんなソースに対応できる仕様になってます。
アナログ出力部はRCAが1系統、XLRが1系統です、それとPre/Postのスイッチがあります。このスイッチはV590-2 Proをプリアンプとして使ってアクテブスピーカーやプリアンプに送る場合はPostを、そうでない場合をPreを選択して使います。プリアンプの性能も高いので選択できるのは嬉しいですね。
DACとしても使用できるので一石二鳥ではないでしょうか。
リモコンはアルミ削り出しの堅牢なリモコンです。フロントパネルの全ての機能がリモコンでも操作できます。なお、上の6つのボタン(RESAMPLING、FUNCTION)は機能しないそうです。
DACは新開発のコンバーターで32Bitリサンプル/リクロックそしてチャンネルあたり2つのDAコンバーターを搭載しています。
ヘッドホンアンプは非常に低ノイズを実現していてセルフノイズもほとんど聴こえません。内部電圧は50Vというかなり高い電圧で動作しているため、出力も充分でハイインピーダンスのヘッドホンでも問題なく鳴らしてくれます。
また、高いダンピングファクターを有しているためローインピーダンスのヘッドホンでも静磁型のヘッドホンでも妥協なく鳴らすことができます。
それでは実際の音を聴いていきます。
試聴環境はMacMiniからAPOGEE Symphony Mk2 I/OからAES/EBUでDHA V590-2Proに接続、ヘッドホンはULTRASONE Signature MASTER、APPLE AirPods Max、Shure SRH1840の3つで比較対象としてはSymphony Mk2 I/OのヘッドホンアウトRME FIREFACE UFX+のヘッドホンアウトと聴き比べていきます。
まず特筆するべきポイントはボリュームを上げていってもピーキーにならないところです。
通常音量を上げていくと、あるポイントからバランスが崩れていき耳障りになることが多いのですが、それをほとんど感じさせません。比較対象のインターフェイスのヘッドホンアウトも音質的にも気に入っているのですがこれは流石に敵わないと感じました。どこまでもリニアに音量が上がっていきそうな勢いです。
POPS/ROCKの時にも感じてはいたのですが中域の重厚感が感じられます。「増えた」という感覚ではなく「しっかりと再現された」という印象でした。ホールの残響のディティールまでしっかり最後まで聴こえ、楽曲のダイナミックレンジを余すことなく再現してます。高域がしっかり出ているのですが自然なので、痛いという印象は全く感じませんでした。
空気感の印象はクラシックの時と同じく演奏空間の再現が素晴らしいです。トランジェントの再現性も抜群で、音の立ち上がりから最後までしっかりと鳴らしてくれるので気持ちよくリズムが体に入ってきます。
比較環境ともっとも違いを感じたのはこのジャンルでした。立場的に言い難いところではありますがあえてお伝えすると、このジャンルは中高音域が飛び出て聞こえることが多いのですが、凄く気持ち良く歯擦音も滑らかに聴けました。そのおかげでビートもしっかり感じられ、曲に没入できました。
印象としては味付けや癖がなく低域から高域、大きい音から小さい音までしっかり鳴らしてくれるヘッドホンアンプです。
ヘッドホンの相性は関係なくどのヘッドホンも性能を引き出してくれます。そのため、なんでも組み合わせられる印象ですが、強いて言えば開放型のヘッドホンとの相性が良いです。開放型好きだけどちょっとスカスカ感が…、といったところが気にならなくなり、まるでスピーカーで聴いているような感覚を感じられると思います。
アナログアウトの質もすごく良かったのでマスタリングエンジニアにもおすすめできます。
アナログ入力 | RCA x 2、XLR x 1 | デジタル入力 | 最大 24 bit/192 kHz の光および同軸、AES/EBU、最大 32 bit/384 kHz・DSD 64 – 256 対応の USB |
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DAC | ESS Sabre ES9026 Pro | 出力 | ヘッドフォン(4ピンXLRバランス x 1、4.4mmバランス x 1、6.3mmシングルエンド x 1)、ラインアウト(RCA x 1、XLR x 1) |
【商品情報】Violectric DHA V590-2Pro
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金額的にもピンからキリまであるヘッドホンアンプは、なにかと後回しになりがちですが、今回Violectric DHA V590-2Proを試聴してみてやはり大事な機材ということを再認識しました。
僕自身も本気で一台探したい!と思わせてくれる質の良さを感じるヘッドホンアンプです。
ViolectricはDAコンバーターも素晴らしかったのでADDAコンバーターを出してくれないかなぁ...なんて密かに思ったのでした。