プロのレコーディング・ミックスマスタリングエンジニア太田タカシさんによるIK Multimedia ARC ON・EARのレビューです。いつでもどこでも自分の環境を持ち歩ける革新的なDAコンバーター兼ヘッドホンアンプを詳しく紹介します。
目次
はじめに
IK Multimedia ARC ON・EARの外観
IK Multimedia ARC ON・EARの特徴
コントロールソフトウェアの設定
IK Multimedia ARC ON・EARの使用感
ARC ON・EARはリスニングにも使える?
おすすめのユーザー
IK Multimedia ARC ON・EARの留意点
まとめ

みなさんこんにちは。レコーディングエンジニアの太田です。
今回はIK Multimediaから発表された「ARC ON・EAR」を、実際に使用しながらレビューします。
ARC ON・EARは、ヘッドホンキャリブレーションとスタジオシミュレーションの両方を搭載したDAコンバーター兼ヘッドホンアンプというジャンルの製品です。本体に設定を保存できるうえにバッテリーも内蔵しているので、一度設定してしまえばプラグインやDAWがなくても、さらにはPCそのものがなくても、外出先でもスピーカーのようなリファレンス体験を提供してくれます。
このような製品を待っていた方は多いのではないでしょうか?私もその一人です。
それではレビューを始めていきましょう!
【商品情報】IK Multimedia ARC ON・EAR
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まずは内容物です。
箱を開封すると、ARC ON・EAR本体の他に、キャリーケース、USB-C to USB-C ケーブル、3.5mm to 3.5mmステレオTRSケーブル、3.5mm to 6.3mm TRS変換アダプタが入っています。
商品購入後にすぐ使えるよう、必要なものは全て揃ってます。
商品の性質上、持ち運びが多くなりそうなので、キャリーケースが付属するのはうれしいですね。
続いて外観を見ていきましょう。
とてもシンプルな外観で、手のひらサイズです。ポータブルDACよりは大きいと思いますが、移動中に使用することはないと思うので、むしろちょうどいいサイズに感じます。
トップパネルは、ボリュームつまみ、CALスイッチ、Studioスイッチ、FNスイッチというシンプルな構成です。
詳細は使いながらみていきましょう。
フロント面は、ヘッドホンジャックがあります。
リア面には、3.5mmインプット、USB Type-Cインプット、電源スイッチと、こちらもシンプルな構成です。
ARC ON・EARのできることを簡単にまとめると、ヘッドホンの補正・スタジオのシミュレート・バーチャルスピーカーの三点になります。専用アプリを使用し、設定を本体に保存して使用します。
ARC ON・EAR最大の特徴が、独立型のヘッドホン補正ハードウェアシステムであるということです。
これまでもヘッドホン補正ができるものはありましたが、ソフトウェアで補正するため、外に持ち出すことが難しい。また、PCのCPUを圧迫する。プラグインタイプの場合は、使わない時や書き出し時にオフにする必要がある。など、正直面倒だと思うことが多かったです。
ARC ON・EARはハードウェアなので、それらの面倒から解放されます。一度設定してしまえばPC/MacのCPUにも負担をかけることなく、プラグインのオン/オフも必要なくなります。
ヘッドホンキャリブレーションは、コントロールソフトウェア上で使用するヘッドホンを選び、Calibrationをオンにするだけです。あとはお好みでToneを設定したり、3バンドのイコライザーで音質を調整して完成です。対応ヘッドホンは数百モデルにおよび、さらに今後も増えていくそうです。
補正のオン/オフは、本体の「CAL」スイッチでもコントロールが可能です。
補正機能を持ち歩けるだけでも十分嬉しいのですが、ARC ON・EARはさらにスタジオシミュレート機能があります。
通常のヘッドホンでは、右に振り切っている音は右耳にだけ、左に振り切っている音は左耳だけで聴くことになります。生活している場やスピーカーで音を聴く環境では、右側の音も左の耳にも入ってきます。このようなヘッドホンで聴く際の不自然な聴こえ方を解消して、自然なリスニング環境で聴いているように再現するのが、このスタジオシミュレーションです。
また、好みに合わせて仮想スピーカーの角度を調整することが可能です。
このスタジオシミュレーション機能のオン/オフも、「STUDIO」スイッチでコントロールできます。
スタジオシミュレーションに付随して、さらにスピーカーの種類も選ぶことができます。お馴染みのモニタースピーカーから、TVやスマートフォンのスピーカーなど、さまざまな環境での試聴を再現することが可能です。
この機能のオン/オフはソフトウェアで「FN」に割り当てた場合、本体でコントロールできます。
本体に保存したプリセットを瞬時に呼び出すことで、ソフトウェアが不要でどの環境でも変わらないサウンドを再現可能です。
プリセットが5つまで保存できることも、うれしいポイントです。ヘッドホンを複数扱う場合はヴァーチャルスピーカーを何種類か設定しておくなど、使い方にあわせてカスタマイズしてみてください。
ヘッドホンキャリブレーションとスタジオシミュレーション機能を使用するような場面は、スタジオや自宅での作業が多いので電源必須かと思いましたが、本体にバッテリーが内蔵されています。外出先で電源がなくても同じ環境で作業ができるというのは心強いですね。
まずは、コントロールソフトウェアを使って設定をしていきます。
ソフトウェアでの設定はものすごく簡単!説明書を読まなくても触りながら直感的に使えます。
まずは、右下のヘッドホンモデルで使用するヘッドホンを選択します。
今回はSONY MDR-CD900STを選択しました。
ソフトウェアの上部にあるグラフで設定前/設定後の周波数特性確認と調整の、3バンドイコライザーの設定ができます。
※画像上の黄色枠内が上記の設定
中部には、左右にインプットとアウトプットのレベルメーターが配置されています。中央で、本体のFNキーにどの機能を割り当てるかを設定できます。
コントロールソフトウェアのメインと言えるのが黄色く枠を付けたエリアで、キャリブレーション・スタジオシミュレーション・ヴァーチャルスピーカーの設定・使用するヘッドホン選択が配置されています。
それでは、実際に使ってみましょう!
試聴環境は、インターフェイスのヘッドホンアウトから6.5mm-3.5mmケーブルでアナログ接続してミックス・マスタリング中に使用。そしてMacBook AirからUSB接続でDACとしてApple Musicのリスニング用途として使用してみました。
ヘッドホンはSONY MDR-CD900ST、SHURE SRH1840、対応型番とは異なりますが、Audio-Technica ATH-R70xを使用しました。
まずはすべての機能をオフにして、純粋にヘッドホンアンプとして試聴してみました。
印象としては、とてもクリアで味付けがない音質だと感じました。キャリブレーションをかける前提で使うアンプとして、安心感があります。
続いて、この製品の本命ともいえるキャリブレーションの確認です。
オンにすると驚くほど自然な音質の変化です。聴感上の補正感がなく、元々この音かと思いましたので、試しに補正をオフにしてみたところ、まったく違う音に感じられて驚きました。こんなに変化していたとは思いませんでした。
また、Phase Alignをオンにするとセンターラインがピタッとしてヘッドホンの存在感がさらに薄くなり、自然な聴感になっていきます。
本命二番手はスタジオシミュレーションです。実は一番驚いたのがこの機能です。
いろんなメーカーから似たような機能が搭載されている製品が出ているのですが、そのほとんどは「はい!部屋鳴りです!!バイノーラルです!リアルでしょ??」みたいな違和感のある鳴りが多いのです。ARC ON・EARには全くなく、スピーカーの音に集中して聴いているような自然な鳴りを提供してくれます。
そしてバーチャルスピーカーです。有名なスタジオモニタースピーカーやリスニングスピーカー、TVやスマートフォンなどの音を再現してくれる機能です。同社のARC XやiLoud Precisionなどでお馴染みの機能が、ARC ON・EARにも搭載されています。搭載を予想していなかったですが、すごくうれしい機能です。
フラットな特性はリスニングとしてはいいのですが、ミックス作業においてはレンジが広すぎて処理しきれないと思う瞬間があります。そういう時に少しレンジが狭いスピーカーでの設定にすると、確認したい音域だけをしっかりみることができて処理しやすくなります。
個人的には、この機能のオン/オフをFNキーに割り当てるのが良さそうだと思っています。
また、リスニング用でも使えるか?と気になってる方も多いと思います。個人的には全然あり!です。
キャリブレーションによるフラットで位相があった音は、リスニング環境としてもとても気持ちがいいです。スタジオシミュレーションを使えば、自然な広がりを感じながらリスニングできます。
ただし、対応ヘッドホンはモニターヘッドホンが多いので、お手持ちのヘッドホンが対応しているか確認が必要です。
おすすめのユーザーは、やはりレコーディングエンジニア・作曲編曲家ですが、映像編集者の方にもおすすめだと思います。
スタジオや作業スペースに囚われずにいつでもどこでも同じ正確な環境を持ち歩ける、まさに「自分のスタジオを持ち歩く」が可能になるので、サウンドの判断が容易になるというのは大きなメリットではないでしょうか?
ARC ON・EARの弱点・留意点としては、フルミックスやマスタリングにおいては問題ないですが、ブースト音量はそこまで大きくないので人によってはヘッドホン出力の音量が気になる方もいるかもしれません。
また、前述したように対応ヘッドホンはモニターヘッドホンが多いので、お手持ちのヘッドホンが対応しているか確認が必要です。
今回は、革新的なDAコンバーター兼ヘッドホンアンプ「ARC ON・EAR」を、実際に使用しながらレビューしました。
個人的にも「こういう製品ほしい!」「IK Multimediaから発売されないかな?」と思っていた矢先の発表でとても期待していたのですが…正直期待以上でした!
キャリブレーション機能だけでも十分だと思っていましたが、それに加えてスタジオシミュレーションやヴァーチャルスピーカーまで搭載してくるとは!さらに、ARC STUDIOのように据え置きではなく、製品の特性を踏まえたコンパクトなバッテリー式。
クリエイターの「あったらいいな」が形になった製品でした。
【商品情報】IK Multimedia ARC ON・EAR
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