プロのレコーディング・ミックスマスタリングエンジニア太田タカシさんによるSONY MDR-M1レビュー!MDR-M1とSONYの歴代モニターヘッドホンをプロ目線で比較します。音質の違いや用途別のおすすめのユーザーなど解説をします。
目次
はじめに
SONYのモニターヘッドホンについて
SONY MDR-M1の特徴
SONY MDR-M1の装着感
SONY MDR-M1の音質
SONY MDR-CD900STとMDR-M1を比較
SONY MDR-M1STとMDR-M1を比較
SONY MDR-MV1とMDR-M1を比較
それぞれのおすすめユーザー
まとめ

こんにちは、レコーディングエンジニアの太田です。
最新のモニターヘッドホン「SONY MDR-M1」が販売開始となりました。
【商品情報】SONY MDR-M1
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先行してアメリカで発表されていた「MDR-M1」は、世界で最も優れた音響施設のひとつとして著名なニューヨークにあるPower StationのStudioAのニアフィールドモニターを目指して開発されたそうです。今までのSONYのモニターヘッドホン達と、どのような違いがあるのか気になります。
以前、MDR-MV1が販売された際にMDR-CD900ST、MDR-M1STと3機種で比較レビューしました。
SONYモニターヘッドホン比較 × 太田タカシ|プロのエンジニアによるヘッドホンレビュー
» こちらの記事を見る

今回は、さらにMDR-M1を追加した4機種で比較していきます。
まず試聴を始める前に、SONYのモニターヘッドホンを簡単におさらいしましょう。
SONYのモニターヘッドホンの中でも国内で置いていないレコーディングスタジオはないと言っても過言ではないほど定番のモニターヘッドホンが「MDR-CD900ST」です。高い導入率はエンジニア・クリエイターやディレクターまで音楽に関わる様々な職種の人が、サウンドチェックの物差しにしているヘッドホンといえます。
【商品情報】SONY MDR-CD900ST
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そして、2019年に近年のハイレゾ音源に対応した次世代の基準機として登場したのが「MDR-M1ST」。
【商品情報】SONY MDR-M1ST
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2023年には立体音響制作にも対応した「MDR-MV1」。
【商品情報】SONY MDR-MV1
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SONYのモニターヘッドホンは時代や環境に応じて発表されてきました。
その系譜に加わる新たなモニターヘッドホンが「MDR-M1」です。
【商品情報】SONY MDR-M1
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まず最初に「MDR-M1」について紹介します。
・5Hz-80kHzの超広帯域再生を実現する特殊な振動板形状
・幅広い音楽制作シーンで活用できる密閉型音響機構
・ハウジングに設けられた通気孔により振動板の動作を最適化
・約216gの軽量設計
密閉構造のため音漏れを気にせずレコーディングできる点、広帯域にわたって再現する音質と長時間のリスニングにも対応する形状という点からも、レコーディングからミキシングまで幅広く使用できる設計のようです。外観とドライバーを見ていきましょう。
まさにSONYのヘッドホン!というSONYらしい意匠を受け継いだ外観です。
わかりやすい違いとしては、イヤーカバーのシールが赤ではなくMV1と同じ青色というところでしょうか。シールの色は、主に海外で人気のモニターヘッドホン「MDR-7506」に似ています。
【商品情報】SONY MDR-7506
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専用設計のドライバーは、乳白色に近い色です。MDRシリーズは黒色のドライバーというイメージがあるので見慣れない感じがしますね。
特殊な振動板形状が採用され、5-80,000Hzの超広帯域再生を実現するドライバーを採用しています。
それでは、実際に装着してみます。
本体重量は、216gと言うことでMDR-M1STとほぼ同じです。MDR-CD900STより15g重いとのことですが、装着するとむしろMDR-M1のほうが軽く感じます。重心も安定しているので首への負荷を感じません。
低反発ウレタンフォームを採用したイヤーパッドは、柔らかく厚手でほど良いフィット感と遮音性です。適度な側圧で安心感があります。
音質の第一印象としては「あまりSONYのモニターヘッドホンっぽくないかも?」でした。
SONYのモニターヘッドホンは音がパキッとしていて近い印象がありますが、MDR-M1は空間の見通しと低音の視認性が高いです。聴き込んでいくとトランジェントもしっかり見えます。音の良いレコーディングスタジオのモニタースピーカーのようなサウンドです。そのため、リスニング用途にも適しているのでは?と感じました。
音質については後述する歴代モデルとの比較も、ぜひ参考にしていただければと思います。
ここからは歴代モデルとSONY MDR-M1を比較していきましょう。まずは定番モデルMDR-CD900STです。愛用しすぎてCD900STのイヤーパッドがボロボロになっておりますこと、ご了承くださいませ。
先述したように、MDR-CD900STは国内のレコーディングスタジオの「The Standard」です。好みはあると思いますが、ミュージシャンやエンジニアなら必ず一度は使用したことがあるはずです。
【商品情報】SONY MDR-CD900ST
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MDR-CD900STは耳にドライバーが直接触れているような感覚があり、冬の乾燥した季節には「バチッ」と静電気を受けた経験がある方も多いのではないでしょうか。そうした点からも、装着感が快適とは言いづらいモデルです。実際、装着感の改善や音漏れの軽減を目的に、イヤーパッドを交換する方が多いのも納得できます。
※愛用のMDR-CD900STもイヤーパッドを交換しています
音質は硬質で高音域が強調される音色です。トランジェント応答も速いと思います。
プロが最も使用するヘッドホンと聞いて手に取り「あれ?あまり音が良くないかも」と思った方もいるのではないでしょうか。実はこの音質がレコーディング中のノイズや演奏テイクの確認で重宝され、今でもスタジオの定番ヘッドホンとなっているのです。
MDR-CD900STとMDR-M1の音質は、まったくの別物と言っていいと思います。低音や空間の広がり方はM1、音の輪郭感や高音のノイズ発見のしやすさはCD900STに軍配が上がります.
続いてMDR-M1STと比較してみます。スペックも見た目も似ている両機、どのような違いがあるのでしょうか。
現代のレコーディング環境に適したモニターヘッドホンというコンセプトのもと、2019年に登場したのがMDR-M1STです。CD900STを踏襲しながらモダンなデザインと構造となっています。
【商品情報】SONY MDR-M1ST
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イヤーパッドの付け心地が良く、CD900STから装着感が向上しています。M1のイヤーパッドと比較すると、素材は似ていますがM1のほうが厚みがあります。
M1STは、距離感が近く、音のレンジの広がりを感じます。音の輪郭や中域の視認性が良く、CD900STを再定義したサウンドという印象を受けます。
スペックに大きな違いがないM1STとM1ですが、音質は全然違います。おもしろいことにサウンドの傾向は真逆です。M1はローエンドとハイエンドの見やすさを感じます。一方のM1STはミドルレンジの見やすさを感じます。そのせいか距離感も異なり、M1も遠い感じはしませんがM1STのほうがより近く感じます。
最後はMDR-MV1との比較です。
MV1はSONYのモニターヘッドホンでは唯一のオープンバック(開放)型で、レコーディングやミキシング用途の他に立体音響の制作にも対応しています。オープンバックヘッドホンは音漏れしますので、ボーカル収録などのマイクが近くにあるレコーディングの際は注意が必要です。
【商品情報】SONY MDR-MV1
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MV1のイヤーパッドは、柔らかいな設計で長時間着けても疲れにくい仕様になっています。M1とは素材が異なり、M1は合皮素材、MV1はベロア素材が採用されています。
MV1には、オープンバック型であることを感じさせない距離感の近さがあります。オープンバック型は少し音が抜けすぎて苦手という方も、MV1ならちょうど良いと感じるのではないでしょうか。音色的にはタイトで高レンジ、フラットなサウンドです。
両機は使用用途が若干違うので優劣では語れない面がありますが、意外にもオープンバック型のMV1のほうが音の距離感は近く感じました。低域のタイトさや重量感の感じやすさはM1に軍配が上がると思います。
これまでの比較をもとに、各ヘッドホンがどんな用途に向いてるか考えていきます。
個人的には一番好きな音質です。モニターヘッドホンらしくないという感覚とモニターヘッドホンらしいという感覚、両方が混在する不思議なバランスです。
レコーディングでもミキシングでもマスタリングでもリスニングでもOK!な音質ですが、最もおすすめしたいのはリスニングです。
エンジニア目線でお伝えすると"音が良すぎる"感じがします。特に中高域がしっかり抑えられていて低音が出るので、ミキシングやマスタリングで使用すると中高域を上げすぎたり、低域を下げてしまったりしそうです。
完成した音源を聴くのであればとても気持ちよく聴けます。そのため、リスナー環境を想定した確認のためのリスニングに適しているヘッドホンと言えるのではないでしょうか。
【商品情報】SONY MDR-M1
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なんだかんだ言ってもレコーディングスタジオの定番ヘッドホンです。エンジニアなら基準となる一台として所有しておいたほうがいいのではとさえ思います。
用途としてはレコーディングを中心に、動画編集のサウンドチェックでも十分に力を発揮します。さらに、ミックス時のトランジェント確認にも最適であり、今回の比較レビューを通じて改めてその価値を再評価できました。
【商品情報】SONY MDR-CD900ST
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現代のレコーディング環境に適したモニターヘッドホンというコンセプトということもあり、CD900STよりも広いレンジになっています。
アレンジ、レコーディング、ミキシング、マスタリングまでオールラウンドに使えるヘッドホンで、特にモニターとして力を発揮してくれます。リスニングとしては最近のヘッドホンよりも低域が寂しいと感じるかもしれませんが、ボーカルを中心に聴きたい方には良いかもしれません。
【商品情報】SONY MDR-M1ST
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唯一のオープンバック型で、空間オーディオにも対応しているヘッドホンです。
素直な音色と音場なので、マイクを使わないレコーディング、ミキシング、マスタリングからリスニングまで対応できるヘッドホンだと言えます。
【商品情報】SONY MDR-MV1
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今回は、SONY MDR-M1と歴代モニターヘッドホンを聴き比べしました。
新たにラインナップされたMDR-M1は、今までのSONYのモニターヘッドホンとは毛色が違うヘッドホンです。先述したとおり、モニターヘッドホンの「聴いてて楽しくない」を感じさせない「モニター寄りのリスニングヘッドホン」としておすすめできると感じました。
「SONYのモニターヘッドホン正直苦手なんだよなぁ」という方も、ぜひ一度聴いてみてほしい一台です。
【商品情報】SONY MDR-M1
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