GRADO Signature HP100 SE をオーディオ専門店スタッフがレビューします。随所に改良点や新開発のパーツを採用し、刺激のある高域や生っぽいボーカル域など個性的なサウンドが特徴的な節目を記念するにふさわしいヘッドホンを紹介します。
目次
GRADOとは
Signature HP100 SEの特徴
Signature HP100 SEの音質レビュー
製品仕様
今から100年前の1924年、アメリカ・ニューヨークのブルックリンである人物が生まれました。彼はその後、時計職人として活躍する一方で趣味のオーディオにのめり込み、やがて自分の名を冠したオーディオブランドを立ち上げます。その人物こそ、現在も人気を集めるGRADOの創設者ジョセフ・グラド氏(2015年没)です。
1953年の設立当初はジョセフ氏の高い技術力で作り上げたレコード用カートリッジが人気を博しましたが、時代の変化にともないGRADOはレコード市場からヘッドホン市場へと活躍の場を移します。他社とは一線を画するハンドメイド感や、ハウジング素材に"麻の圧縮材"を採用した「The Hemp Headphone」(生産完了品)を生み出すなど、非常に個性の強いブランドです。
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そのGRADOから、創設者ジョセフ氏の生誕100周年を記念したモデルが登場します!それがこちらの「Signature HP100 SE」です!
今回はこのSignature HP100 SEについて、詳細および音質レビューをお送りしたいと思います。
GRADOの大型モデル・Statementシリーズではおなじみの真っ白な箱を開けると、Signature HP100 SE本体にケーブル、イヤーパッド(Ear Pad F)が収められています。
こちらがSignature HP100 SE本体。
1990年代からヘッドホン市場に参入したGRADOですが、その当時から一貫して”開放型モデル”だけを作り続けているという頑固な一面を持っていることでも知られています。このSignature HP100 SEもご覧のとおり、もちろん開放型です。
ジョセフ氏が1990年代初頭にリリースした伝説のヘッドホン・Signature HP1・HP2・HP3を継承した、一目でGRADOだとわかるデザインとなっています。
ここまでの写真でお気づきの方もいるかもしれません、実はこのSignature HP100 SEではGRADO史上初の”着脱式ケーブル”を採用!GRADOあるあるともいえる、あのケーブルの「ねじれ」も簡単に解消できますね。
付属ケーブルはGSシリーズにも使われている”12芯スーパーアニールケーブル”をさらに改良、よりソフトで耐久性のある編組仕上げにすることでケーブル全体の重量が軽減されています。長さは約1.85m、プラグは6.3mmとなっています。
ヘッドホン本体との接続は左右とも4pin miniXLR端子です。残念ながらバランスケーブルは付属しませんが、これならサードパーティー製ケーブルや自作ケーブルなど用意はしやすいのではないでしょうか。
イヤーパッドは、こちらもGSシリーズと同じく大きなお椀型の「Ear Pad G」が装着されています。お世辞にも装着感に優れているとは言いがたいのですが、なぜかこのイヤーパッドでないとGRADOらしい音にならない、という不思議な魅力を持っています。
イヤーパッドとしてはもうひとつ、SR325xなどにも使われている「Ear Pad F」が付属します。実はSignature HP100 SEの元ネタ・Signature HP1に装着されていたのがこのEar Pad Fだそうで、そのこともあり2種類のイヤーパッドが付属することになったそうです。
ちなみにこのEar Pad Fには
「どちらのイヤーパッドを使うべきか、どう聴こえるのかは伝えることができません。それはあくまで私たち(GRADO)の意見でしかないのです。重要なのはあなた自身の意見なのですから」(意訳)
というメッセージが添えられていました。
大きく口を開けたグリルからは、Signature HP100 SEのために新開発された52mm径のダイナミックドライバーがのぞきます。
この新開発ドライバーはレアアース合金を使用した強力な高磁束時期回路に軽量銅メッキアルミニウム製のボイスコイル、新しいペーパー・コンポジット・コーンの組み合わせにより優れたダイナミクスとトランジェント・レスポンスを実現しているそうです。
ヘッドバンドはこれまたおなじみ…ではなく、実はこちらも新開発!一見GS1000xのものと同じに見えますが、長時間のリスニングでも快適に使えるように牛革製ヘッドバンド内部の緩衝材を50%増量しているのです。
そのヘッドバンドとハウジングをつなぐロッド部分の機構にも、もちろん改良が施されています。ラッチ感などのないスムーズな調整感覚は従来モデルと変わりませんが、回転が105度までに抑えられているためこれまでのようにくるくる無限に回ってしまうことがなくなりました。また、ロッド先端のエンドキャップが外れてしまってもハウジングがストン!と落ちることがないように設計されているそうです。
「GRADO LABS」の刻印が入った、ハウジングとロッドをつなぐ”ジンバル”も地味ながら重要なパーツです。こちらもアルミニウム合金製で、それぞれの接点強度を充分に高めています。
シンプルで地味、良くも悪くも手作り感あふれるつくりといったポイントはいつものGRADO、という感じではありますが、必要な部分にはしっかりと改良が加えられていることがわかります。
それではSignature HP100 SEの音質チェックとまいりましょう。組み合わせるヘッドホンアンプには、TEACのデュアルモノーラル・ヘッドホンアンプ搭載DAC・UD-507を選んでみました。
【商品情報】TEAC UD-507
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ここまででご紹介したようにさまざまな改良点や新開発のパーツを搭載したSignature HP100 SEですが、その音は繊細さよりもノリ重視、とにかく音楽は楽しく聴ければOKでしょ?という声が聞こえてきそうないつものGRADOサウンド!…というとなんの変化もないようですが、もちろん細かいところではこのモデルならではの聴きどころを感じさせる出来になっています。
サウンドバランスとしてはやや高域寄りの逆ピラミッドバランスで、若干の金属的な刺激も感じさせるほどスピード感のあるハイ~ミッドの主張が強い音になっています。とはいえ中域部、特にボーカルには艶が乗った生っぽさもあり、無機質な印象はありません。低域は量感控えめながら重さがあり、ドラムやベースなどのバシッと決めてほしいポイントは外すことなく届けてくれます。ほぼ同価格帯となるGS3000xと比較すると、音の柔らかさやウォーム感はぐっと抑えられてはいるもののボーカル域の生々しさ、ライブ感は充分に感じとれるという絶妙な音作りのように思います。
音場の広がりは聴いている音楽がリスナー以外にもまるわかり、というくらいに音漏れすることもあり充分に広く、前後左右に展開します。解像感・定位感についてはカリカリに高いというわけではなくほどほど、という感じですが、とにかくノリと勢いで攻めるGRADOサウンドの力強さに圧倒されてしまうのかあまり気にならないのが不思議です。
正直なところ、ビルドクオリティや個性的なサウンドなど、いわゆる「高級ヘッドホン」に求められる出来栄えを期待する方には少々お勧めしづらい点もあることはたしかです。それでも、そうした点を「GRADOらしさ」として許せてしまうようななんともいえない魅力を持っているのがこのSignature HP100 SEであり、GRADOというブランドではないでしょうか。
ドライバー構成 | 52mm 口径ダイナミックドライバー | 形式 | オープンエアー |
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感度 | 117dB | 周波数特性 | 3.5 - 51.5kHz |
インピーダンス | 38Ω | 重量 (ケーブルを除く) | 520g |
【商品情報】GRADO Signature HP100 SE
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